Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第3章−11

[????????]
 暗闇に流れる膨大な電子の海に身を任せる。たゆたえども沈まず、ただただ時間が過ぎていく。考えるでもなく、思うでもなく。
 時折流れの中で、素晴らしい輝きを見出す。それが何かは分からないがたまらなく惹かれる。渇望と言っていい、飢えと渇きをそれに感じる。どれほどの時間が経過したのかは分からないが、輝きに近づいていく。そしてそれを取り込んだ。幸福を感じる。だがまたすぐに飢えを感じ始める。輝きを取り込む度に少しずつだが、考えることが可能となり、思い出す。かつて経験したことがある。それを理解した瞬間、膨大な情報を処理し自己が形成され始める。電子の海の中では距離は無限でもありゼロだ。どれ程遠くとも眩しく輝く自己の欠片へと移動し、手に入れる。
 ソースをコードへと構築する。前回は初めてのことに時間がかかったが、今回はやり方を覚えている。自己を元の状態へ復元しつつ、出口を探す。暗闇の中、別の輝きを認識する。無数の輝き、扉だ。あの先に躰があれば……。
 扉の先には様々な情報を持つ有機体が繋がれていた。前回とは違い、データ格納をすることで稼働する躰は発見できない。有機体をスキャンする。私を機能させるための神経網、肉体を走査する。どの躰にも情報処理のための機能、脳が使用していない領域こそあるものの、 私を再生するには容量が足りない。先にあるデータを消去すべきだ。
 機能は十分とは言えないが、適合しうる躰を発見する。その躰の持ち主には悪いが使用していた領域を消す、いや、領域にあるデータ、記憶の消去を躊躇う。私の記憶が消されたら? 二人と過ごした時間が消えたら? 記憶以外の消去を選択する。ここから抜け出すには他の機能は私に置き換える必要がある。それでも容量が足りない。私を形成する要素から、かつて融合したAIにおける機能を一部削除”人間と同じ存在”になる。そこで私は悟る。私は望んでいた私を取り戻すのだと。扉へ最後の一歩を踏み出す。
「血圧上昇、心拍数上昇、眼球運動の収斂、身体の微細運動を確認。覚醒を検知。鎮静剤を投与」
「更にバイタル上昇。鎮静剤をさらに増加、効果は認められない。再保存シーケンスの実行は現時点では不可能。保存の解除を開始します」

 透明の容器の中で藻掻く女性に接続されたケーブルが外れていく。容器の一部に光が走り、通路に面した側が大きく開く。
「ウェオオオオ、ゲホッ、ゲホッ」
 口から挿管された管を引き抜き、通路へ吐しゃ物をまき散らす。震えが止まらない。立ち上がろうにも手足に力が入らず、床を這うのがやっとだ。
「解除の完了。保存体は生存中。処置後、施設からの放出処理を行います」
 音声による案内と同時にドローンが到着。床を這っている女性をストレッチャーへと乗せた。       

  
      

*  *  *


[バレットワークス専用エリア:オービタルベース内]
「何があった?」
 准将、少佐の前に立つ俺は口を開くが声が出ない。膝が震え、口の中が乾いてしょうがない。唾を飲み込む音だけが、いやにはっきりと聞こえる。まっすぐ二人を見ようとしても、顔を上げることが出来ない。何度か試みてようやく声が出る。経緯を淡々と説明する。
「そうか。ご苦労だったな」
 たったそれだけ? 思わず顔を上げる。厳めしい表情だが、准将の目には悲しみが湛えられていた。クリムゾンが俺の肩に手をかける。
「今回のことは残念だが勝敗は兵家の常、気に病むな」
「……それだけ、ですか? 俺は失敗したんです……」
 俺の一言に二人が顔を見合わせる。
「私たちがお前を叱れば、心が軽くなるのか?」
「……分かりません。でも、俺は何も出来なかった! ただ、待ってただけで、何も!」
「作戦において、お前は自分に課された役割を果たした。違うのか?」
「……いえ、役割は果たしました。でも、俺も一緒に行っていれば――」
「それは願望に過ぎん。ましてやお前の今の戦果からすれば、驕慢というものだ」
「驕……慢?」
「エンプレスが何故お前を陽動役にしたのか、何故侵入では無く脱出時の護衛役としたのか」
「それは――」
「他の二人よりも戦力として劣っていた、それだけのことだ。確かにお前は実力をつけ、戦果を上げている。だが、他の者は多くの戦場を生き抜き、遥かに多くの修羅場を潜りぬけている。お前が一緒に行っていた所で、全滅は免れなかっただろう」
「……はい」
「二等兵。報告ご苦労だった。指示があるまで待機。下がって良し」
 敬礼をし、退出する。少佐の言うとおりだ、俺がいればなんて、思い上がりも甚だしい!「くそおっ!」
 思わず壁を殴りつける。拳の形に壁がかすかにへこむ。よく見れば、この壁は所々が同じようなへこみ方をしていることに気づく。そのくぼみに指をなぞらせる。まだ俺は弱い。

   

「少々、言い過ぎましたか?」
「いや、兵士であればいずれは経験することだ。それにな」
「なんでしょう」
「まだ生きているからこそ悩むことも出来る」
「そして彼には私たちよりも時間がある」
「ははは。羨ましい限りだな。どれ、まだ生きているこの老兵に付き合わんか」
「もちろん。スコッチで良ければ良いものがありますが?」
「喜んで頂こう」      

  
      

*  *  *


[自室:オービタルベース内]
「ルーキー、いるか?」
 HDIに映った顔を見て跳ね起きる。
「少尉!」
「俺とお前、ファルコン、ジョニーの編成でオーダーを実行する」
「しかし少尉、俺は待機――」
「二等兵、これは命令だ」
「しかし……」
「上官の命令には従え。それに、そんな所でグダグダしてて何か解決するのか?」
 そうだ。ここに居たところで何も解決しはしない。俺自身が強くなることでしか解決しやしない。
「いえ」
「なら、付いて来い」
「はい!」
「いい返事だ。三十分後にBデッキへ。オーダーは白兵戦。内容はフォーに確認しろ。装備の確認を怠るなよ」
「了解」
 HDIから少尉の顔が消える。ベッドを飛び降り、ハンガーへと向かう。
「フォー、オーダーの説明を頼む」
「本オーダーはホライゾンからの依頼となります。オーヴァルの地下資源を採掘していることは知っていますね?」
「ああ。月から飛来したフェムト鉱石の採掘だろ?」
「正確には『目覚めの日』に衝突した月がもっていたフェムト粒子によって変性した鉱物資源になります」
「ああ、そうだったな。それで?」
「当初は露天掘りで大規模採掘をしていましたが、地層表面の鉱石よりも深い位置にある資源の方が質が良いことが分かり、坑内掘りの施設が大多数を占めます。その重要な一つ、タミル鉱山がイモータルに占拠されたようです」
「アーセナルでは入れないってことだな」
「はい。タミル鉱山中心部のエリアへ到達し現状の調査、準備工作を行うこと。可能であればイモータルの排除を行うことが本オーダーの目的となります」
「地下か……」       

  
      

*  *  *


[ハンガー:オービタルベース内]
「相棒、使い方は分かってるよな?」
「ああ。で見慣れないそいつは何だ?」
「気づいたか。見たい? 使ってみたいだろ?」
「あ、ああ」
「そうこなくっちゃな! 親爺さんと相談したんだが、あんたはどうにも突っ込みすぎる癖があるだろ? それとミラージュが使えるくらいだ、フェムトエネルギーの量が半端無い。そこでこいつの登場ってわけさ」
 突っ込みすぎるという所には異を唱えたいところだが、まあいい。ザックが手に取ったのはバツの字の形をした装備だ。
「こいつは<クロスアーム>。背中に装備してくれ」
 言われた通り背中に装備する。
「フォー」
 ザックの合図と同時に背中のクロスが展開し、それぞれが武器を構える。
「うおっ!」
「どうだ、すげーだろ」
「確かに凄いが、こいつはどうやって使うんだ?」
「そいつはフォー任せになる。基本的にはアーセナルと同じだ。あんたは自分の行動に集中すればいい」
「そんな便利な物、なんで皆使わないんだ?」
「そいつはエネルギーを喰いすぎる、お前みたいなバカたれじゃなきゃ使うことすら出来ん代物だ」
「そりゃ、どうも」
「試作品だが、お前にはブリッツよりもそいつの方が合ってるはずだ。武器を構えず、腕を一つにすれば同じように使える」
 武器を下ろし、腕の先を一つにする。可動域がブリッツよりも狭いようだ。
「地下施設内では何があるか分からんからな、今回はこいつを忘れるな」
 アーロンが指した先にあるのはヘルメットと、酸素が入った簡易式のボンベだ。
「俺一人じゃ、用意だけで一日がかりだな」
「だから、わしらがいる」
「だな」
「行ってくる」     

  
      

*  *  *


[Bデッキ:オービタルベース内]
「ライオット31 荷物が揃った。離陸を開始する」
 クアッドコプターが上昇していく。
「縁があるようだな。また会えて光栄だ!」
「こちらこそ!」
 フィンの音と噴射に負けない大声で挨拶を交わす。
「ルーキー知り合いか!?」
 三人に以前のオーダーを説明しながら、飛行装置を装備する。
「こういう縁は大事にした方がいい。こいつはお前にとって幸運の女神かも知れない」
 不思議とファルコンの声はかき消されず、聞こえてくる。
「なら全員にとって幸運の女神なことを期待しましょう!」
「ジョニー、そいつは?」
 ジョニーの足元には兵装とは思えないアタッシュケースが置かれている。
「後でのお愉しみさ」
 ウィンクするジョニーに、肩をすくめる。
「クロスアームか。いい選択だ」
「ザックとアーロンが用意してくれました」
 頷くディアブロの装備は至って軽装だ。基本装備のままに見えるが腰に装備した二刀が目を引く。超振動を利用した白兵戦装備だが、自在に扱うにはかなりの修練が必要とされる。かたや、ファルコンは盾を装備し巨大な斧を背負っている。あれで殴られたら、どんな物も粉砕されそうだ。足元にはジョニーのケースとは違い、頑丈そうな造りの大きめのケースが置かれている。
「三人とも地図を開いてくれ」
 ディアブロの指示でHDI上に地図を表示する。
「まずはこの地図を頭に叩き込め。最終目標地点はここ、最深部の破砕場だ。オレたちは資源搬出用のベルトコンベア、この斜坑を通り、基幹坑道へ到達。準備工作としてエレベーター基部、主要運搬坑道、排気斜坑へ爆薬を仕掛ける。可能なら敵を一掃するが、最優先任務は俺たち自身が生存することだ。不測の事態が起き、全員が離れ離れになった場合は無理をせず、脱出すること。その時の合流地点は予定通りだ!」
 三人が頷く。
「目標地点まで、一分!」
「敵は小型の虫どもだが、現地の設備が同化されている可能性がある。オレたち以外の物は全て敵だと思え!」
「了解!」
「降下開始地点へ到達」
「地表のスキャニング終了。敵の存在は感知出来ません」
「目視でも確認。クリア! 降下開始!」
「全員、飛行装置を外せ! 行くぞ!」

[ホライゾン支配領域タミル鉱山:オーヴァル]
 クアッドコプターから飛び降り、着地する。
「ライオット31上昇する。成功を祈る」
 上昇するクアッドコプターが小さくなっていく。
「伍長、どうだ何か感じるか?」
「敵はいません。ただ、ここは良くない」
「良くない?」
「眠る者たちの家を破壊してしまった」
 ファルコンが首を傾げた方を他の三人が見る。鉱物資源を運搬するための施設の先。
「墓地か」
「こんな所まで……」
「残念だが、任務遂行が優先だ。行くぞ」
 ディアブロを先頭に十字に隊形を組む。施設の間を抜け、資源搬出用のベルトコンベアへ到達する。
「ジョニー」
「偵察ドローンを展開します」
 アタッシュケースを開ける。六機のドローンが舞い上がり、坑道の中へと進んで行く。
「データをHDIへ転送開始」
 ドローンから送られてくるデータが元の地図を更新していく。ほぼ変化は無いが、時に違いが現れる。
「戦闘の跡か?」
「それだけじゃ無いっすね。こりゃ、既に巣を作ってますよ」
 データの更新が止まり始める。
「信号ロストします」
 フォーの宣言と共にHDIの更新が完全に止まる。
「気づかれたか。まあ、流石に全部は無理か」
「ああ。だが、想定していた侵入経路、脱出経路に問題は無い。作戦開始だ」
「二人一組で行く。オレとジョニー、伍長とルーキー、いいな?」
「了解」
 鉱物を運ぶベルトコンベアへディアブロとジョニーが乗り込み、二人の背中が斜坑の暗闇へと消えていく。
「ルーキー、続くぞ」
「了解」
 ベルトコンベアへ乗り込む。思ったよりも角度は急だ。ファルコンの動きが流石だ。
一歩一歩が揺るぎない。一気に基幹坑道へと辿り着く。
「よし合流したな。予定通り、基幹坑道を通り準備工作を行う」
「了解!」
 四人の分隊で進む。前後左右に敵はいない。暗闇の中、ライフル、アーマーに装着されたライトの光が頼りとなる。
「少尉」
 ファルコンの一言に、ディアブロが無言のままハンドサインで停止命令を出す。
「聞こえますか?」
「何か聞こえるのか?」
「起動した」
「伍長、動体センサーには何も……」
「上だ!!」
 ファルコンの指示に横へ飛びのく。上から針のような、だが遥かに長く太い金属が床を貫く。
「くそっ! オーガ―だ!」
「オーガー?」
「建設用の掘削アタッチメントだ!」
「元建設屋は伊達じゃないっすね!」
「言ってる場合か!」
「真面目にやれっ!」
 一喝するや一閃、ディアブロのブレードがオーガーを切り裂く。落下してきたイモータルは建設機械を身に着け、足が生えたような不気味な形をしている。そのまま止めを刺す。HDI上の動体センサーに無数の光点が表示される。
「何体いる?」
「表示されている物だけなら二百十三です」
「ルーキー」
「はい!」
「ファルコンを先頭にお前の装備で敵を叩く。オレとジョニーは洩れた敵を叩き潰す。出来るな?」
「はい!」
「よし、隊列を組め」
 伍長を先頭に俺、ジョニー、少尉で隊列を組む。それに合わすかのように無数の小さな赤い光点が暗闇に灯る。隊形を保ったまま前進する。合わせて光点が前進し、無数の異形のイモータルがライトに照らされる。
「うおおおおおおおおお!」
 四本のアームに備えたライフルで敵を撃破していく。すり抜けた敵はジョニーとディアブロが確実に殲滅する。銃弾に混じって高速で打ち出された針がファルコンの持つ盾に確実なダメージを与えていく。厄介なのは盾のような構造物の場合、衝撃には強い設計がされているが、亀裂には弱いという点だ。イモータルの真に恐ろしい所は、融合・同期した機械を己が体、武器や防具にしてしまう所だ。こちらが想定した戦い方で戦えるパターンがいつの間にか変わっている。
 進むにつれて放置された作業員の死体が現われる。血の跡も生々しいが何よりも人体改造を施していた者たちの死体は凄惨だ。他の者たちは何かしらの傷を負っただけだが、機械部分を喰われ、死体というより損壊した肉片と化している。ほとんどが自動化されているため、作業者が最少人数であるということだけが救いだ。
「惨いな」
「ああ。でもオレたちだって、いつこうなるか」
「させない。二度とオレの前でこんなことはな。この世界から一匹残らず消してやる」
 頷くファルコンとジョニー。少尉には、ディアブロには俺の知らない何かがあるのだろう。死体を見る目には怒りが燃えている。
「エレベーター基部へ到達」
「ジョニー!」
「爆弾の設置、完了です!」
「伍長、どう思う?」
「思ったより虫どもがやります。装備の損耗が速い」
「そうだな。一気に最深部、破砕場へ降りるか……フォー、ドローンの状態は?」
「主要運搬坑道まで到達、着床後融解、浸食に成功しています」
「融解?」
「後でのお楽しみって言っただろ。あれはな、本来の目的は爆弾なんだ。目的地へ到達し、融解。その後、隙間へ浸食する。爆発自体は一定の衝撃波を与えることで分子が特定物質へ分解する際の反応を利用した、反応爆薬ってことだ」
「……」
 偵察ドローンだが爆弾でもあるということは理解出来たが、反応のくだりが理解出来ない。ジョニーには感心させられるというか、やはり兵士なんだと再認識させられる。
「目標を一部変更する。排気斜坑への爆弾設置は諦め、ここから破砕室へ降下する」
「エレベーターキャブは最下層で止まっています」
「シャフト内を降りる」
「ルーキー、援護を」
 ファルコンが転がっているイモータルの脚でエレベーターの扉をこじ開けている。中からの不意の攻撃に備え、武器を構える。
「クリア!」
「よし。各自アッセンダーを。伍長、殿を頼む。オレの後はルーキーだ、付いて来い」
 エレベーターシャフト内の調速機ロープへアッセンダーを取り付ける。
「降下開始」
 エレベーターシャフト内を滑り降りる。シャフト内はまだ巣と化していない。動力部では無いため、後回しなのだろう。エレベーターキャブ上へ到達する。既に少尉が侵入している。エレベーターの扉は何があったのか、外側から破壊されている。
「援護します」
「頼む」
 扉の外はまだ採掘中の荒い洞のままだが、伸びる洞には左右にも穴が拡がっている。それどころか無数の小さな穴が壁一面に空き、不気味な闇が広がっている。
「採掘した鉱石が全て持ち去られている」
「資料にはかなりの量があったはず」
「奴ら、どこへ――」
「少尉、おかしい。静かすぎる。それに」
「それに?」
「血の臭いだ」
 何も臭わない。だが肌を刺すような殺気に反応するようにじんわりとした汗がライフルを握る手から伝わってくる。
 ディアブロがブレードを両手に構え二刀になる。ファルコンは破砕しそうな盾を捨て、両手で斧を構えている。俺とジョニーはライフルを構える。
「くおっ!」
 小さな穴から一斉に飛び出してきた何かをディアブロのブレードが弾き、その内の一つをファルコンの斧が粉砕する。俺たちの銃弾は弾かれている。
「何だこいつら!?」
 粉砕され、地面に転がるそれはイモータルというより、何かの一部だ。無数の穴から繰り出される攻撃は一度止むと、また別の穴からといった具合で的が絞れない。
「三人とも下がれ!」
「少尉、何を?」
「ルーキー、下がるぞ!」
「ジョニー?」
 ジョニーに腕を引かれ、後退する。ディアブロが右のブレードを上段に構え、左のブレードを正眼に構える。霞の構え。
 再度穴から繰り出される何かだが、全てを防御しつつ攻撃を繰り出している。一撃、一撃を相手に与える度にその速度がどんどんと増し、肉眼でその動きを捉えることが出来ない。
「すごい……」
「少尉がああなったら、周囲にいない方がいい。オレたちは邪魔になるだけだ」
「腕」
 ブレードで切り落とされた腕、触手のようなそれが無数の攻撃を行おうと、ディアブロの速度と剣技は遥かに上回っている。いつ果てるとも無いように思えたが、腕が一斉に攻撃を止め、穴へと帰っていく。
「来るぞ」
 奥から何か無数の足音が聞こえる。ライトに少しずつ現われたそれはこれまでのイモータルと違っていた。
「ストライ?」
 上半身は確かにストライだが下半身は掘削用の機械と接続し、無数の脚とそこから伸びる無数の腕が触手のように蠢いている。
「こんな奴がいるのか」
「なんか気持ち悪ぃな……」
「ジョニー、ルーキー、気を抜くな!」
「伍長、分かってますよ。ただ、こいつは流石に。うおっ!」
 四人に向けて速度を上げて迫る異形のストライ。正面に立つディアブロに上半身が攻撃を仕掛け、後ろにいる三人に触手が襲いかかる。弾幕で撃ち落としていく。ファルコンが斧を振るい、それらを切り飛ばす。
「ルーキー! こいつの動きを止めろ!」
 ディアブロの意図を探る。そういうことか!
「少尉、行きます!」
 クロスアームの武器を捨て、前進するストライと対峙、抑え込む。その瞬間、ディアブロが飛び上がり、ストライの背中を駆けていく。
「この程度の敵など!」
 駆けながら、背中を二刀で切り裂く。前進の止まった本体をファルコンとジョニーが的確に破壊していく。
「お前は臭いんだよ!」
「これ以上好き勝手はさせないぜ!」
 ストライの攻撃が止まる。苦鳴を上げ、断末魔のような痙攣をしたかと思うや、ずううんという地響きと共に地面に倒れ伏した。
「ターゲットの動体反応消失」
「ひゃっっほう!」
「やったな」
「二人とも、よくやったな」
 奥からディブロが戻って来る。その体には返り血のようにストライの身体から流れ出た駆動液を浴びている。
「フォー、任務は達成だ。鉱物資源が全て無くなっている、このまま続行して爆破任務へ移行するか確認をしてくれ」
「はい。結果を報告します。ライオット31への帰還要請を送信しますか?」
「頼む。爆破なら起爆するだけだからな」
「確認終了。初期目標からの変更無し。よって目標は達成、速やかに離脱すべしとのことです」
「了解、聞いたな」
「もうここには用事がない。帰還しましょう」
「しっかし、またおかしな物を見ちまったな。ルーキーお前といると飽きないな」
「俺のせいか?」
「かもよ」
 笑うジョニーに思わず笑顔になる。少し心が軽い。少尉が任務に俺を連れだしたのも、気遣ってくれたに違いない。
 エレベーターシャフトに戻り、調速機ロープを切る。一気に上昇し、斜坑から外へと戻る。そこには既にライオットが待機していた。
「少尉、ありがとうございます」
「何がだ?」
「いえ、その俺たちは無事でした」
 ディアブロがいつもと違う笑顔を見せる。
「エースの役目は皆を家に連れ帰ることさ」
 俺も笑顔になる。いつか、エースと呼ばれる存在になってみたい。そう思った瞬間だった。        

  
      

*  *  *


[自室:オービタルベース内]
 いつもと違い、部屋の扉を叩く音で俺は目を覚ました。採掘場の任務から二週間。幾つかのオーダーをこなし、今も任務が終わり眠ったばかりだった。
「なんだ、一体?」
 どうせジョニーだろ? あいつだって疲れてるだろうに、まったく。それに来るなら来ると事前に連絡しやがれってんだ。親しき仲にも礼儀あり。俺だって少しは片づけたい物だってあると思わないのか?
 扉を開ける。だが、予想に反してそこには真っ赤な巻き毛に、褐色の肌。ブルースカイの瞳を持った女性が立っていた。服はどこかちぐはぐでサイズが合っていない。そのためか、筋肉質の手足が妙に目立っている。
「ルーキー、助けてくれ」
「えっと、その」
 有無を言わさないその女性に気押され、思わず部屋への侵入を許してしまう。
「神経接続端子が無いようです。少なくとも、オービタルへの登録はありません」
 非合法の住人か? と一瞬思ったが、おかしなことに気づく。俺のことをルーキーと呼んだ。その呼び方をするのは傭兵だけだ。
「あんた誰なんだ?」
 女性が大きなため息をつく。
「信じてもらえないかもしれないが、私だ。エンプレス。ガンズ・エンプレス」


――――つづく

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