Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第3章−9

[自室:オービタルベース内]
「二通のメールが来ていますが?」
「どこから?」
「一通はオービタル、もう一通は装甲の王冠からです」
「そりゃ、どっちも……とりあえずオービタルを再生してくれ」
「代読します。オービタルにおいて、あなたの働きぶりを審査、またバレットワークスへの入団に伴い、あなたの傭兵ランクを”C”へと昇級いたしました。これにともない、旅団ランクでのオーダー受諾が認められます。それではこれからも人類のため、あなたのより一層の活躍を期待しています」
「旅団ランクでのオーダー受諾?」
「はい。これはオーダーを受ける際、そのランクに足りない場合でも旅団に割り合てられたランクで受けることも可能となるものです。ただし、その場合はあくまで上位の旅団員がいる場合に限られます」
「そりゃ、助かる。バレットワークスに入団したとはいえ、受けられる任務にランクは必要だからな。しかし、今通達されるって遅くないか?」
「ご存知の通り、オービタル内には幾つものセクションがあり、傭兵ランクの上昇、下降には幾つもの手続きが必要となるため、旅団に入団したからといって即ランクの上昇というわけにはいきません」
「分かった、分かった。お役所仕事ってことだろ?」
「俗に言えば、そうですね」
「まったく……で、装甲の王冠の方は?」
「ガンズ・エンプレスからです」
「なんだって!?」
「デートのお誘いだそうです」
「嘘だろ!?」
「再生します。ルーキーの坊や、昼間はクィーンと楽しく過ごしたそうじゃないか。今夜、私と一緒に過ごさないか? たまには誰かと過ごすのも悪く無いもんだよ。あんたは、女の誘いを断るようなバカ野郎じゃ無いだろ?」
 再生が終わる。間違い無くヤバい匂いがする。十中八九、何かヤバい誘いだ。だが、だがしかし、万に一つ、いや百万に一つ、そういう可能性もある。恐らく悩んだのは瞬間だろう、ほぼ迷いなく、表示された”はい”を選択する。向こうに返信されたはずだ。とほぼ同時に、新しいメールが表示される。中身は自動返信だろう、中身は待ち合わせ場所だ。
「プレジャーガーデン?」  

 

 オーヴァルに来て以来、服なんぞ買ったことも無く。支給されたアウタースーツに、これまた支給されたオービタルの制服、そしてバレットワークスの隊員服。私服はといえば、壁の外で着ていたような薄汚れた物しか無い。しかし、”傭兵契約者が知るべきオーヴァル”一般にはオーヴァルガイドブックでは無く、本物の”オーヴァルガイドブック”によれば、プレジャーガーデンはオーヴァル内で唯一の遊園地だ。海に面した雰囲気のある、デートに最適な場所と記載されている。そんな場所に流石にアウタースーツで行く気はおきない。もちろん、オービタルの制服も却下だ。残るは隊員服とよれよれの服だが――。        

  
      

*  *  *


  [オーヴァル:プレジャーガーデン]
「レディを待たせるとは、いい度胸じゃないか」
「それは……すいません」
 どうやらエンプレスは先に来ていたらしい。待ち合わせ時刻ぴったりに到着したのだが、作戦と同じ時間厳守ということでは無いらしい。どうにも馴染めない。
「謝って済むなら……まあ、いい。で、その格好は?」
「変かな?」
「変じゃないけどさ、もう少しマシな格好は無かったのかと思ってさ」
「ああ、オーヴァルに来てから服を買う金は、全部アーセナルに回してたから……」
「成程ね、それはいい心がけだ」
「どうも」
 どうにも勝手が違い過ぎて、どう会話をすればいいかが分からない。戦闘作戦中なら、こんな事は無いのだが。
 結局、俺が選んだのは着古したメタリックナイロンのパッドジャケットに、カーゴパンツ、帽子に、トレッキングシューズ。壁の外で俺のような生活をしていた人間がよくしている形だ。かたや、エンプレスときたら、いつもはまとめている髪を下ろし、無地にVネック膝下丈のニットワンピース、靴は服に合わせた色のフラットシューズ。濃紺のワンピースにシルバーのペンダントが良く似合っている。
「いつまで、突っ立ってるつもりだい? 少し歩こうか」
 エンプレスが俺の腕を取り、園内へと歩み出す。それに釣られて、俺も歩き始める。エンプレスだけにエンブレース(抱擁)を期待したのは、期待し過ぎだろうか。
「で、バレットワークスはどうだい?」
「一人の時より安心感はあるけど生活は変わらないし、どうだろうな。しかし今日は何でまた?」
「おかしいかい、私があんたを誘っちゃ?」
「いや、おかしくは無いけど、十中八九ヤバい誘いだと思ったからさ」
 エンプレスがケタケタと笑いだす。
「なんだい、それ。私を何だと思ってるんだい?」
「いや、その――」
「流石、いい勘してるじゃないか?」
「え?」
「ほら、前を見て」
「あ、ああ」
 そうだよな、という気持ちではあるが、まだどこかにチャンスがあるんじゃないかと思う自分が妙に情けない。大体、男という生き物はどうにも女性に対して、勘違いをし過ぎる。恐らくは環境だ。
「何でここか? だろ?」
 考えていたことは全く違うが、とりあえず頷く。
「私たちアウターは常に監視されているだろ?」
 あまり気にしたことは無かったが、そうなのだろう。
「オービタルベースの中は特にそうだ。ここであっても変わらないが、周りを見てみな」
 周りにはカップルだけでは無く、家族連れ含めて色々な人たちが数多くいる。ウォール街に住んでいる人たち、オービタルの職員、様々な人たち。ようやく周りがはっきり見えてくる。余程、緊張していたのだろう。
「ここなら、ハッキングで顔認証をごまかした所でこの数だ。違和感は無くなるがオービタルベースの中じゃバレバレだ」
「そういうことか」
 腑に落ちた。エンプレスが見せたハッキングの腕であれば、監視カメラのデータ書き換えなど造作も無いだろう。だが、目立つ場所で入れ替えれば前後全て入れ替えなければならない。それは流石に彼女でも、手間には違いない。
「じゃ、今、俺とあんたは別の顔ってことだよな?」
「そうなるね。顔認識で検索しても複数ヒットして特定すら出来ないようにしてあるから、アルゴリズムのアノマリー(偏差異常)で片づけられるだろうね。どれだけ精度が上がろうと顔認識のようなシステムは、一〇〇%一致は難しいからね」
「なるほどな」
 話が難しくて良く分からないが、彼女に任せておけば間違いないことだけは確かだ。
「で、相談だがね」
「でヤバい事なんだろ?」
「あはは。そうだねぇ。ある施設に忍び込みたい。そのための陽動をやって欲しいんだよ」
「施設?」
「覚えてるだろ?」
「ライブラリィ……」
「ビンゴ」
 ニヤっと笑うエンプレス。いつもと違う装いのため迫力には欠けるが、いつもの感じに俺もいつもの調子が出てくる。
「何で俺が? 装甲の王冠でやれないのか?」
「共同体と大っぴらに事を構えたくないからね。そこで、バレットワークスが持っている”イモータル偽装装置”の出番ってわけさ」
「何でそれを!?」
 しまった。思わず反応しちまった!
「ふふ。まあ、誰かに知られずに何かやるっていうのは難しいってことさ。ここじゃね」
「そりゃ、怖い」
「まあでも、今の所知っているのは私だけだろうね」
「それで、何で准将に直接話さないんだ? あんたなら、その方が早いんじゃないのか?」
「話としてはね。けれど、彼の動き、彼だけじゃないね。旅団長は共同体やオービタル、他旅団長も注視している。二人も同時に動けば、何か、何処かしらで気づかれるもんさ」
「だからバレットワークス、いや傭兵になって日の浅い俺であれば、その範囲外だと」
「期待のルーキーではあっても他にもランクCの傭兵は幾らでもいる」
「だよな」
 ようやく手に入れたランクが幾らでもいると言われて、すこし落胆するが努めて顔に出さないようにする。
「一つ聞いていいか?」
「何?」
「何であの施設にこわだるんだ?」
「……そうねぇ」
 絡ませていた腕を離し、体をそむけながら唇に人差し指を当てた仕草をする。思案が終わったのか、俺の方へ向き直る。
「大切な人が死んだ理由を知るため、かな」
 思っていたような理由では無く、思わず言葉を失う。
「……大切な人か……考えてみるよ」
「そうこなくちゃね」
「それで、俺に何か見返りはあるのか?」
「うーん。上手くいったら、本当のデートっていうのはどうだい?」
「え?」
「あははは。冗談だよ。何か考えておくよ。少なくとも情報は手に入る。それだけでもここじゃ、かなり大きい報酬と言ってもいい」
「だよな」
「良い返事を待ってるよ」
 そう言うと、俺に背を向けて歩き去る。俺も帰ろうとして気づいた。園内を一周していたらしい。ここは最初の待ち合わせ場所だ。歩き出した俺の鼻腔を彼女の残り香がくすぐる。こんな夜も悪くない。


――――つづく

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