Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第3章−6

[バレットワークス専用エリア:オービタルベース内]
「確かなことは分からんが、オーヴァルの禁忌に触れたらしいな」
「禁忌……ですか?」
 クリムゾンが眉をひそめる。
 准将を筆頭に、十人。バレットワークスの全員が揃っている。
「憶測で語るとは、准将らしくも無い。何か根拠でも?」
 声に皮肉があるのは気のせいだろうか。幽鬼を思わせるその姿と声は人を不快にさせずにはいられないだろう。彼に注目をせざるを得ないにも関わらず、目を背けたくもなる。
「おめぇはいつもうるせぇんだよ。オヤジの言うとおりにしときゃ問題ねぇだろうが」
 お前と呼ばれた男、ビショップが永久凍土のような眼差しを送る。見るからに戦闘者といった風情の男は、髪を剃り上げ、整えられた髭に、側頭部には骨の絵だろうか? 入れ墨を入れている。浅黒い肌に筋骨隆々とした見事な体躯は、ビショップの四倍はあろうかという厚みと幅を持っている。
「伍長、君の粗暴さには感心しないな。おめぇではなく、せめてお前か名前、もちろん中尉と呼ぶのが正しいと思うがね。教養の無さを自ら示すのは粗暴を通りこして、愚かだ」
「喧嘩売ってんなら買ってやるぜ」
「ビショップ、ボーン、そこまでにしな」
 ドレイクの一言にニヤついていたボーンは諦めた顔になり、ビショップは逆にニヤリと笑っている。どこまでも対照的な二人だ。周囲の面々は何か言いたそうな顔はしているが、ドレイクに遠慮しているのか、何も言い出さない。
「根拠というにはほど遠いが、調整ミスでは無く明らかな対立を容認したオーダーが多くなっている。その上、死者も出始めている」
「そいつらが弱いだけだろ」
「茶化すな」
 ディアブロとクリムゾンの間に一瞬、不穏な空気が流れる。それを無視して准将が続ける。
「表面上はどう繕ろっていようと、共同体同士の軋轢に綻びが出れば当然、予兆として我々の戦いに影響が出る」
「その予兆が私たちに、オービタルに影響を与えているとして共同体同士で戦争が起きるとでも?」
「或いはな」
「准将、禁忌っていうのは何なんです?」
「かつてオーヴァルの最深部に赴いた調査団が壊滅的な打撃を受け、それ以降最深部は侵入禁止区域に指定されている。もっとも、侵入したくてもイモータルたちによって出来ないわけだが。場所だけでは無い、不可侵に指定されているものは他にもある」
「目覚めの日以前の人類の遺物」
「そうだ。当時まだ、ただ一つの旅団として戦い始めた頃には既に不可侵の取り決めがあったと見るのが妥当だろう。ライブラリィは目覚めの日以前の建造物だ。それに手をつけるほどの何か、決断せざるを得ない何かがあったと考えるのが妥当だ」
「通称ライブラリィ。ウロボロス計画によって作られた施設。ですが、記録上では中身はほとんど持ち出されている」
「ペインキラー、君の能力は評価しているが、データの読み方が稚拙すぎる」
「というと?」
「当時造られた資料は無いが、全体の写真は残されている。それと現在残された物の大きさを比較すれば、どれほどが地中に埋まっているか検討がつくはずだ」
「それで?」
「記録にある目録と建物の容量をざっと計算してみたらどうなる? おやおや、気づいたようだ」
「まず、あれだけの施設を支えるには少なくとも3倍の面積を持った基底部が必要になる。建物自体の容量と合わせても、記録にある内容物では少なすぎる」
「持ち出された物が他にもあるのか――」
「施設その物か、だ」


 沈黙が訪れる。周囲を見回す者、場違い感に身動ぎする者、次の発言をしようと試みて、口を閉じる者、瞑目し思いを馳せる者。それぞれが何を思うのか――。
「壁を造っていた方が正解だったかな」
 ファルコンの場違いとも思える言葉に、緊張がふっと霧散する。
「どっちにしたって、オレ様のやる事は変わんねーか」
「違ぇねぇ。どっちみち戦うしかねぇってこった」
「ははははは」
 いつもの空気だ。怖れを知らない十人の兵士たち。
「私たちにはこの戦いに勝利するという目的がある。そのためには伍長、特技兵の言うとおり、勝利を重ねるのみだ」
 クリムゾンに皆が頷く。沈黙を続けていた准将が口を開く。
「これからのために、皆にはそれぞれやって欲しいことがある」
 准将から各自に任務が伝えられる。それぞれが内容に首肯する中ただ一人……。
「えー、また俺だけこんな任務っすか。ハァ……」
「不服か?」
「いえ、ジョニーG上等兵、任務了解しました」
「背筋を伸ばしな!」
 文字通り、ケツを蹴り上げられたジョニーにさらに大きな笑いが場に響いた。

  
      

*  *  *


[自室:オービタルベース内]
「な、ひでー話だろ?」
「そりゃ、ご愁傷様で」
 肝心の任務内容は聞けなかったが、大体のあらましは分かった。で、ジョニーの任務に俺も付き合えってわけだ。
「だからさ、いいだろ?」
「俺を誘うって事は何かあるんだろ?」
「う……まあ、その何だ。准将に言われたオーダーを受けようとしたんだけどさ、ちょっと苦手な旅団がいてさ……」
「苦手? お間に苦手なんかあったのか?」
「あるさ! ってそういう事じゃないんだけどな……ウエストセブンだ」
「それは、俺も、ちょっと――」
 苦手と言おうとして、前回の敗戦を思い出す。実力差がまだまだある事は分かっている。だが、素直に負けを認めることを良しとしたくない、自分に気づく。
「やってやろうじゃないか」
「お! そうこなくっちゃな! フォー頼む」
「ブリーフィングへ接続します」
 ブリーフィングルームには、ウエストセブンがただ一人。東の出身なのだろう。細く切れ長の目は峻厳さと深海の昏さを湛え、長く伸ばした髪を頭頂部に近い場所で縛っている。聞いたことがある。ウエストセブンが必勝を期す任務には必ず団長のリーパーと共に肩を並べる男。ネームレス。
「これ以上待っても、客は増えないでしょう」
 その通りだ。ウエストセブンが複数いたらいたで怖いが、たった一人というのは不気味この上ない。
「フォー、ウエストセブンはこのオーダーを受けます。登録を」
「え? オーダーの詳細を確認しないまま受けるって、大丈夫なのか?」
「我々にはオーダーを選り好みしてる余裕はないのでね。他の団員も戦わずに死ぬよりは戦って死ぬ方を選ぶでしょう。詳細なら、あとでブリーフィングの記録を読ませてもらいますよ。では、アーセナルの調整があるので失礼」
 ブリーフィングルームから退出するネームレスに、ジョニーも俺もバカみたいな顔をしていたに違いない。
「えっと、それじゃあフォー、説明を頼む」
「了解しました。ブリーフィングを開始します。本オーダーはスカイユニオンからの依頼となります。砂漠エリアに存在する破棄された都市群の至近で、イモータルが何らかの建造物を敷設しています。この建造物に対する調査が本オーダーの目的となります。また目標の周辺には護衛と思われるイモータルを確認、調査のためには、これらを排除する必要がある事が予測されます」
「何らかの建造物って言うけどさ。何のための施設かわからないのか?」
「外見からは一切の推測ができません。そのための調査が本オーダーとなります」
「そりゃそうか……ま、調査ならそれほど危険もないだろうし。バレットワークスはこの任務を受ける」
「俺も受ける、登録してくれ」
「了解しました。それでは任務開始時刻までに準備を完了し、出撃に備えてください」
「それじゃあ、さっさと終わらせて、どかっと実績をいただこう! 現地でな!」
   

  
      

*  *  *


[スカイユニオン破棄都市群/砂漠:オーヴァル]
「フェムト粒子の分布は高濃度。レーダーは砂塵で電波が攪乱されるためほぼ機能しません。また砂塵により光学観測も困難です。各機のデータリンク開始。小隊の通信回線を開きます」
 やれやれだ。こんな中で不意打ちを喰らうのは避けたいが、砂塵のせいで目も耳も塞がれた状態だ。
「ネームレスより個別回線での呼びかけがあります。回線を開きますか?」
「あ、ああ」
 回線が開き、HDIへネームレスが現れる。
「先ほどは名前も名乗らず、失礼しました。私はウエストセブンのネームレス。ネームレスと名乗るのもおかしな話ですが、まあ、ただのコールサインだと思ってください。いや、そんな話をしたかったわけじゃなかった。以前にあなたと我々との間で衝突があったはずです。それについてお詫びを言いたかったのです」
「いや、そんな、こちらこそ……」
 急な謝罪に何かの罠かと思ってしまう。ウエストセブンが謝罪するだって!?
「我々は傭兵団の中でも特に……そう、特殊でしてね。傭兵団そのものも、団員たちそれぞれも、大きなしがらみに縛られている。理解してくれとは言いません。時に相容れないこともあるでしょう。ただ、我々とて生き残ることが目的なのです。これからどんなことが起ころうとも、それを忘れないで欲しい。他の誰にも自分の命を自由にされる謂れはありません」
「そうですね。分かります。俺も自由になりたくて、ここへ来たくちですから」
 驚きにどう返せば良いか分からず、思わず丁寧な口調になってしまう。まったく、調子が狂う。
「伝えたかったのはそれだけです。お互いに生き延びましょう。それでは」
「個別回線、切断されました。通信の内容は記録されません」
「おいおい、オレをのけ者にして何を話してたんだ?」
「ちょっとした世間話です。あれが例の建造物ですね?」
 ネームレスの言う通り、うっすらとだが巨大な建築物が見える。砂塵のせいで今一つ分からないが、周囲に小型のイモータルが飛んでいるようだ。
「生産施設か? それとも前線基地かな? 調べるにしても周囲の虫どもが邪魔だ。ルーキー、穴を開けてくれるか?」
「任せろ」
「私も手伝いましょう。ジョニーさん、調査の記録をお任せしても?」
「ああ、任せてくれ。どっちかっていうとドンパチより、こっちの方が本職なんだ」
「では、手分けして調査を――なんです?」
 けたたましくHDIにでかでかと警告表示がなされる。それは点滅し、アウタースペースを真っ赤に染める。
「目標の建造物から高熱源反応を観測しました。熱源温度、さらに増大中」
「熱源反応? 発電施設か何かか?」
「違います。これは――」
 砂塵が移動している!? 建築物を中心に砂塵が渦巻き始めている。
「緊急離脱! 離れてください!」
 砂塵の中央で光が左右に脈動している。これは、見たことがある……。
「おいおいおいおいおいおい! なんだよ、こりゃ! なんなんだよ!!」
「建物なんかじゃない。これは巨大な――」
「目標からフェムト反応を観測。イモータルであることを確認しました」
「イモータルだって!?」
 あれは目だ。A+のイモータルの目。
「オ―ビタルのデータベースに同型イモータルの記録は存在しませんでした。新しいタイプのイモータルのようです」
「そりゃそうだ! 前に見た奴より比べ物にならないほどデカい!」
「まるで歩く要塞――フォー、スカイユニオンに情報の伝達を!」
「既に行っています。たった今、スカイユニオンよりオーダー内容の変更がありました。新種のイモータルを撃滅せよとのことです。それにともなって報酬が増加します」
「うわあ! 前と全く同じパターンだ! ルーキー、やっぱりお前って疫病神なんじゃないか?」
「そのまま返すぜ。お前だろ、疫病神は!?」
「嘆いていても始まりません。報酬が増えるのなら、むしろ喜ぶべきでしょう。死なない範囲でやるだけやってみましょう!」
「お、おい! マジでやるのかよ!! くっそ、もうどうとでもなれ! 行くぞルーキー!」
 距離を詰める。この距離なら目視で細かい所まで見て取れる。戦車だろうか? 巨大な四本の脚に見たことも無い巨大な大砲を身に着け、その周囲には無数の機銃が設置されている。厄介なのは銃弾だけでは無い。そいつが移動をする度に砂塵が竜巻となり、周囲へ拡がっている。回避方向を間違えば、あの竜巻の中につっこむことになる。そのためなのか既に小型のイモータルたちが見当たらなくなっている。
「どういう仕組みなんだ?」
「脚の先を見てください」
 ネームレスの言葉に、注意を敵の足先に向ける。足先は杭のようになっており、それが移動の度に地面へ打ち込まれている。
「あれが?」
「おそらく、岩盤を破壊するための装置か何かです。あれが接地する度に地面を砕き、砂塵を巻きあげているんです」
「だからって、何で竜巻が!」
「正確には竜巻では無く、塵旋風です。地表付近の温度があのイモータルに熱せられることで熱上昇気流が発生し、脚によって破壊された砂塵が地表から上空へと回転性の上昇気流として立ち上っています」
 まったく、歩く災害だ。
「なら、脚を破壊してしまえば、竜巻は起きなくなる」
「そうなります」
「決まりだな。ジョニー、ネームレス、脚を集中攻撃してみないか?」
「乗った!」
「敵を進退維谷に追い込めば、勝利は我が物です」
「やるぞ!」
 竜巻を避け、脚へ集中攻撃を開始する。本体だけでなく、脚へ設置された砲台からの攻撃を躱すが全部を躱すことが出来ない。この程度は問題は無いがどうしても被弾してしまう。
「くそっ!」
 三人で脚を攻撃するも、強固な装甲に包まれたそれはダメージがあるのかどうかすら怪しい。
「これじゃ拉致があかねぇ。ルーキー、ネームレス援護してくれ。胴体の下に潜り込んでみる」
「了解」
 ネームレスは地上、俺は空中から銃撃を浴びせる。二人が囮となることでジョニーを攻撃対象とさせない援護行動をとる。その間を縫って、ジョニーが胴体の下へと滑り込んでいく。
「どうだ?」
「装甲は薄そうだ。いや待て。何かが……」
 ジョニーの目の前で腹部分の装甲が開いていく。中には何かは分からないが六つの装置が見て取れる。
「何だ?」
 装置の間を強力なエネルギーの放出による火花と放電現象が起きている。
「ヤバい!!」
 装置から真下へ猛烈な熱を伴うエネルギー粒が発射される。後退が間に合わないと判断したジョニーは全力でブースターを吹かす。
「うおおおおお!」
「何!?」
 真下へ発射された熱波は膨大な砂塵を巻き上げながら、猛烈な速度で周囲へ拡がっていく。
「回避する!」
 俺は全力で空中を後退する。ネームレスは? 熱波と砂塵が球状に拡がる。ダメだ、間に合わない! さながら地獄だ。アーセナルを着ていなければ、この中で生き残れると思えない。熱波に吹き飛ばされる。体中に痛みと熱を感じる。飛んでいたはずだが、意識が飛んだ瞬間があったのだろう、地面へ叩きつけられた衝撃を感じる。
「ジョニー! ネームレス!」
「なんとか生きてる。だが、動けない」
「ジョニーは私が。君は態勢を立て直して」
「言われなくても。フォー、損害の報告を」
「装甲が三〇%損傷。今の装備ではあの攻撃を全て受ければ耐えるのは困難です」
 それほどに。敵の向こう側にジョニーが見える。装甲がボロボロだ。おそらくさっきの一撃で電磁装甲が破れてしまっている。ほとんどまともに喰らってしまったのだろう。ネームレスがジョニーの横で片膝を付き、手の平を装甲の上へ当てている。装甲自体をこの場で修復は出来ないが、電磁装甲のエネルギーを与えることで一時的に防御層を回復させる手だ。
「フォー、攻撃システムは?」
「無傷です」
「フォー、ミラージュを起動」
「ミラージュを起動します」
「やってやるぜ!」
 焦るな、一つずつだ。自分に言い聞かせる。ミラージュと連動し集中攻撃で脚の機銃砲台を破壊していく。その破壊の余波で、内部で供給されている弾丸なのか何かが誘爆しているようだ。装甲が内側から剥がれ落ちていく。
「ジョニー、ネームレス。装甲じゃなく奴の武器を狙うんだ!」
「なるほど」
「ルーキー、やるじゃないか!」
「ジョニー、装甲の回復を終了します。これでお互いに五〇%です」
「済まない!」
「行きますよ!」
 三方向からの脚への攻撃。自分の不利を悟ったのか、イモータルが囲みの外へと突進を開始する。こんな巨体にぶつかれば一たまりも無い。回避行動を取り、距離を開く。
「行けるぞ!」
 イモータルを追うが何かがおかしい。脚がこれまでに無いくらい深く地面に突き刺さっているにも関わらず、竜巻が発生していない。それに、あれは何だ? 大砲の左右にあんな物あったか?
「散開しろ!」
 ネームレスの指示に、体が反応する。巨大なエネルギー粒が射出され、俺たちを追うように放出され続ける。
「ルーキー喰らうなよ! どう考えてもまずい!」
「分かってる、お前こそ。くおぉおおお!」
 機体を急速に動かすことで、骨がきしむ音までが聞こえる。まともに喰らうことは無くとも、装甲自体へ影響しているのだろう。既に本体その物へもダメージが出始めている箇所がある。
「くそ、どうやって倒す?」
「もうボロボロだ。流石にまずい。弾薬はあっても、装甲がもたない!」
「現在の戦況では撤退を勧告します」
「逃げるのも作戦の内だよな?」
「一つ提案があります」
 HDIに映る顔は、ネームレスだけが変わらず涼しそうな顔をしている。俺とジョニーは汗だくだ。物理的な温度もあるが、なによりも喰らった攻撃に体の代謝がおかしくなっている。
「ルーキー、ミラージュはもう一度使えますか?」
「フォー、どうだ?」
「装甲の修復に回している量をカットすれば、現時点で三十秒ほどの運用が可能です」
「だそうだ」
「さっきと同じ作戦で、三方から敵を囲んでください。もう一度あの大砲を撃ってくれば、勝機はあります」
「どうやって?」
「やってみなければ分かりません。最後までやりますか? それとも――」
「やってやるさ! 勝機が万に一つでもあるなら、勝ってやる!」
「やろうぜ」
「さあ、勝ちますよ」
 三方からの攻撃を開始する。ミラージュを展開し、三方向ではなく四方向から、さっきと同じような攻撃でしか無いがイモータルが苛ついていることが分かる。脚や胴の被害が思ったより大きいのだろう。攻撃を銃座に任せるだけでなく、脚その物を振り回し攻撃とこちらの攻撃の回避を行っている。
「来ますよ!」
 ネームレスの警告に、回避行動を取る。突進し俺たちの包囲網を破る。この後は当然――何が起きたのか分からなかった。
「蹴りやがった!!」
 包囲網を脱したイモータルの大砲がこちらを向いた時、空中から一閃、急降下したネームレスが大砲を蹴り下げ、巨大なエネルギー粒が本体を貫いたのだ。イモータルは人間とも動物ともつかぬ苦鳴の叫びを上げ、崩れおちていく。
「やったか? 手応えはあった!」
「嘘だろ!」
「マジかよ……」
「目標のフェムト反応、急速に減衰していきます。自律行動が不能なレベルへの減衰を確認。 目標、沈黙します。オーダーの達成を確認しました」
「ヒャッホー! やった! オレたちだけでやっつけたぞ!」
「やりましたね」
「まったく、あんたとんでもねぇな」
「いつから、あんな事考えてたんだ?」
「内部を破壊してもダメ―ジを見る限り、こちらの損害の方が大きかったですからね。そこにあの大砲。勝つには、あれしか無かった」
「大したもんだ」
「記録もバッチリだ! この実績があれば、准将も新しいコールサインを認めてくれるかな?」
「今のコールサインに不満が?」
「不満ってワケじゃないけどさ。 ジョニーGってコールサイン、本名まんまなんだぜ? やっぱ傭兵らしいカッコイイのが欲しいじゃんか」
「それを、名無しである私に訊きますか?」
「あ、そうか。あんた、ネームレスってコールサインだったっけ……ついはしゃいじまって、何だか悪かったな」
「気にしないでください。何であれ、名前があるのはいいことですよ。あなたが誰なのかという証明なのですから」
「あんた、いい人だな……」
「そうでもありません。ご存知かも知れませんが、私はまだ刑期が300年ほど残っている犯罪者です。いや、このオーダーの報酬で20年は減りましたかね?」
「そりゃ、大変だな」
「我々は刑期の減免のためなら何でもやります。あなた方とはなるべく敵対したくありませんがね」
「あんたのことは信用するよ。殺人鬼じゃあるまいし、あんただって理由もなく誰かを殺したりはしないだろ?」
「もちろんです。まあ、仲間の中にはそういう輩もいるのですが」
 だろうな。そう思ってたよ。しかし、思い知らされてばかりだ。前回の戦闘といい、傭兵の頂点にいる者たちとの差を痛感する。
「帰ったらコーヒーをごちそうしましょう。とてもいい豆が手に入ったんです。まさか、断ったりしませんよね?」
「もっ、もももちろんだとも!」
「それはよかった。ではフォー、帰還しましょう」
「了解しました。帰還シーケンスを展開します」
「コーヒーか、楽しみだなァ! ルーキー、お前も付き合えよ! 絶対だからな!」
「もちろんだ」
 帰還するまでに絶対だからなを十回ほど聞かされ、俺たちは無事帰投した。


――――つづく

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