Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第4章−2

[大会議室:オービタルベース内]
 [13:40]
「謀ったな!?」
「クソッ!!」
「野郎!」
「リーパー!」
「分かっている!」
 准将の号令に、リーパーが右手を上げ、義眼を操作する。
「全員、頭を下げろ!」
 瞬間、義眼から発射された光線が遮蔽装置によって作られた壁を切断した。壁は大小様々な破片となって飛び散る。各首脳の座る議長席は強制的な脱出装置により既に空となっている。
 覗いていた巨大なイモータルの紫の複眼は既になく、そこにあるのはレーザー射出のための巨大なレンズ。その奥でエネルギーが送り込まれる光が瞬く。
「全員、退避だ!!」
 准将が叫びつつ、空中に舞っている巨大な破片を抱える。意図を察した各旅団長は割れた防壁を越え、脱出行動に移る。助けることも出来るだろう。だがこのままでは全員が死ぬ。生き残るチャンスがほとんどゼロだとしても、最大限に活かす。それが傭兵、戦場だ。
「ぬうぅううう!」
 空中に飛び出し、レンズへと破片を突き立てる。だが、光の瞬きは止まらない。
「ここまでか……」
 突き立てた破片を別の手が掴む。
「一人じゃ無理だ」
「クロウ……」
「あんたにだけ、格好つけさせてたまるかよ」
「すまん」
「ぬうぅうおおおおお!」
「うおりゃあああああ!」
 巨大な閃光が准将とクロウを包み込む。
   

「あなた、お帰りなさい」
「ここは……」
「そんな所に立っていないで」
 手を取られ、促されるままに光の中を進む。いつの間にか、逆の手を握る手がある。
「お父さん! お帰り!」
 ああ、この笑顔を見るのはいつ以来だろう。
「ただいま」
 いつもの笑顔。
「ねぇねぇ、聞いて聞いて!」
「うん?」
「あのね、僕いろいろ出来るようになったんだよ」
「もう、お父さん疲れているんだから――」
「いや、いいんだ。何が出来るようになったんだ?」
「かけっこすっごく速くなったんだよ、見たい?」
「ようし、じゃあ競争だ」
「いいよ! いくよー」
「よーい」
「どん!」
 息子の走る速度に合わせて一緒に走る。息を切らせて一生懸命に走る息子を決して追い抜かない。時々追いつき、また速度を緩める。後ろを振り向けば、妻が手を振っている。幸せとは、何と近くにあることか。
 これからは、ずっと一緒だ。
 

 傷ついたレーザー射出レンズは集束するエネルギーを放つことはなかった。だが、送り込まれたエネルギーは行き場を失い、巨大な爆発を起こした。爆風は旅団長たちの体を壁、あるいは天井、床へと叩きつける。だが、瓦礫を跳ね除け、埃の舞う中を三つの人影は直ぐに立ち上がり、部屋の外へと移動する。
「くぉおおおお!」
「口惜しいが今は退却すべき時だ」
「そんなこたぁ、分かってんだよ……分かってんだよ!」
「本当に分かっているのか?」
「何だと!?」
「これから始まるのは”戦争”だ」         

    

*  *  *


[自室:オービタルベース内]
 [13:41]
「第一級防衛プロトコル発動。繰り返す、第一級防衛プロトコル発動。一般職員は作業を放棄。直ちに脱出行動を開始、各戦闘員は防衛配置につけ」
「第一級防衛プロトコル発動。各旅団、傭兵へ緊急オーダー発令。このオーダーに拒否権は無い。各自アーセナルにて攻撃対象を迎撃せよ」
   

「何が起きたんだ?」
「オービタルベースが複数のイモータルによって攻撃を受けています」
「攻撃!?」
「先日の坑道内で戦った新型イモータル、またその亜種と思われる物が数十体、確認されています」
「あの速い奴、あれが!?」
「その他にもギガント級が十体」
「何だって!?」
「そのため、第一級防衛プロトコルが発動。緊急オーダーが発令され、全傭兵は、戦闘区域への出撃命令が下されました。この命令に拒否権はありません」
「みんなは?」
「現在、全ての傭兵、防衛隊へレベルに分けた情報網を構築中です。構築完了。接続します」
 HDIへバレットワークスメンバーが表示される。
 クリムゾン、エンプレス、ビショップ、ディアブロ、ドレイク、ファルコン、ジョニー、アーティスト……
「准将は?」
「旅団長の緊急招集会議へ出席している。外部からの接続不可エリアのため、確認は出来ない」
「親父さんのことだ。心配はいらないさ」
「フォーから状況は聞いているな。我々は南エリアの防衛にあたる。フォー、説明してくれ」
「南エリアに侵入してきた敵はギガント級が四体。新型が二十四体。現在、壁に設置された対地・対空砲による反撃と、防衛隊による反撃が試みられていますが、損害が増加中です。防衛隊には退避命令が下されます。バレットワークス全メンバーは速やかに防衛にあたってください」
「ギガント級は私とディアブロ少尉。エンプレス大尉、ビショップ中尉、セイリオス二等兵の二小隊で対応。新型のイモータルはドレイク軍曹、ファルコン伍長、、ジョニー・G上等兵、アーティスト特技兵、軍曹の指揮に従い、これを撃滅せよ」
「了解!」
「バレットワークス、総員出撃!」         

    

*  *  *


[ハンガー:オービタルベース内]
 [13:45]
「久々の出撃がこんな日なんて、お前ついてねーよな」
「まったくだ。それより準備は?」
「OKに決まってんだろ。俺様を誰だと思ってる?」
「バカ垂れども! 無駄口を叩いている暇なんぞないぞ!」
「はいはい! セイリオス、お前がいない間に准将の命令で少しばかり兵装をいじってある」
「武器を?」
「ああ、それぞれアップグレードした。そして――」
「説明はフォーに聞け! 虫共は待ってくれんぞ!」
「だ、そうだ」
「だな。行ってくる!」
「頼んだぜ!」
 アーセナルへ滑り込み、兵装と装備を確認する。アストライオスⅡを二丁、フレイムファウスト、ダークマンティス、ガイアプレ-ト。
「ダークマンティス?」
「自律行動を行い敵を自動で追尾、攻撃を行う兵装です」
「自律行動ってことは」
「はい、ターゲット設定をあなたが、行動をわたしが制御します」
「なるほど、じゃ久々のダンスだ。決めていこうぜ」
 ドラムドライブへ移動する。だが、感覚が微妙に違う。気のせいか?
「フォー、調整が微妙にずれていないか?」
「始めは違和感を感じるかも知れませんが、徐々に馴染むはずです。エンプレスの情報提供を元にバレットワークスが装甲の王冠の機体を購入。その機体に施されていた特殊装備とアルゴリズムを各機へ施したことにより、装備者の神経反応速度は三〇%アップしています」
「すごいな」
「はい。彼女はMULTIPLE MODULATION SYSTEM、MMSと呼んでいます。バレットワークスの機体には全てこの機能を搭載しました」
「いいね。なら、その身をもってやつらに体験してもらうとしようか。新しいアーセナルの力を!」         

    

*  *  *


[緊急脱出通路:オービタルベース内]
 [13:50]
 六人の護衛に守られながら通路を進む人影がある。強制脱出装置によって襲撃から逃れたホライゾン政治総裁、スカイユニオン統治局長、ゼン主席代表の三人だ。
「なんてことだ。なんてことだ」
「局長、落ち着いてください。今は脱出に専念を」
「この状況で落ち着けだと!?」
「しかし、この事態を収拾するには最早使うしかありますまい」
「それにはまずは、生き延びねばなりません」
「もちろんだ! 脱出ルートは?」
「手順に従って、壁の外にあるヘリポートから囮として十台のヘリを同時に発進させます。閣下達は専用の地下脱出列車を使い――」
 答えていた護衛の一人が突然倒れた。
「何だ!?」
 三人を護衛が囲むも二人がほぼ同時に頭を撃ち抜かれ、倒れる。残った三人が咄嗟に首脳三人を床へと押し倒し、その上へ覆いかぶさる。
「応射!」
 ゴーグルに映し出された熱源へと三人が応射するも、距離が遠い上に床へ腹ばいになっている標的には簡単に当たらない。敵は狙撃手だ。それも凄腕の。
「ぎゃっ!」
「ぐぬぅ!」
 原始的だが、だからこそ人類の歴史、戦いの歴史から消え去ることの無い武器、戦斧によって無残に断ち割られ、二人の体が跳ね上がった。残された一人が何とか反応し、襲撃者へ応戦しようと立ち上がる。
「断ちます」
 最後の一人の後頭部へ銃弾が炸裂する。
「な、なんだ!?」
「何が起きて!?」
「き、、き、き、き、き貴様!」
「プロフェッサーの予告通りだな」
 淡く発光した肌に、浮かびあがる模様。色はあるのだろうが白に近い金髪――。
「グルーミー! グリーフの犬!」
「まったく教養が無い」
「待て! 話せばわかる!」
「遅きに失したな」
 グルーミーの振るう戦斧が三人を一撃の元に葬る。
「任務完了。戦域を離脱する」
「了解。離脱します」

 

*  *  *


[オービタルベース:サウスウォールエリア]
 [13:50]
「チィ! 一体に三〇%も消費するとは。思った以上にやる」
「こいつら、普通じゃない! あの巨体で反応速度はアーセナル並みだ!」
「少尉、近接戦闘に切り替える。やれるな?」
「誰に言っているんだ? エースは俺だ!」
 お互いに声をかけるわけでも、見るわけでもなく、同時に頷く。
「潰させてもらう!」
「数を減らす!!」
 ブースターを全開にし一体の巨大な人型イモータルへと突っ込む。以前戦った型よりもアーセナルに近い。両手は巨大なガンアームを装備し、背中には無数の兵装と思しき装備が見て取れる。頭は無いが、胸の中央で紫の光りを放つ複数の目が、こちらを睨め付けている。敵の弾幕は激しいが、巨大であるが故にその弾幕の間には大きな隙間があり、クリムゾンとディアブロはその弾幕の間を抜け、最小限の距離で間合いを詰める。
「ぬううん!」
「このまま押し切る!」
 クリムゾンの機体が急加速し、下へと潜り込む。一瞬、どちらを攻撃するかを躊躇したイモータルの隙をつく。クリムゾンのブレードが脚を切断し、体勢を崩すイモータルの脇腹から腕へとディアブロのブレードが切り裂いていく。
「堕ちろ!」
 イモータルから漏れる声は怨嗟の呻きから咆哮へ変わる。
「何ぃい!?」
 腕の影、正確には腕の装甲で隠された部分からもう一本の腕が出現し、ディアブロを掴もうとした刹那、体の反射へ機体がそのまま反応する。瞬間、さらに加速して飛び上がり、隠し腕に一撃を与える。同時にクリムゾンの援護射撃が隠し腕を粉微塵にする。ディアブロはそのまま滑るように中枢をブレードで貫き、クリムゾンのブレードはもう一方の脚を切り落としている。
「敵の先を読め、MMSが無ければ凌ぎきれなかったぞ」
「言われなくても、わかってる! でも……妙だ」
「ああ。一瞬、迷いがあったな。しかし敵は敵だ。それが変わることは無い」
「チッ」
「戦況は?」
「巨大イモータルを二体撃破、新型は二十体。ドレイク軍曹が苦戦中です」
「エンプレス大尉、聞こえるか?」
 HDI上にエンプレスが表示される。
「聞こえてるよ!」
「そちらの二体のギガント級は私とディアブロ少尉で片をつける。大尉は隊を率いてドレイク軍曹の援護に回れ」
「中尉、ルーキー、聞いてたね!?」
「ビショップ中尉、これよりドレイク軍曹の援護に向かう」
「了解!」
 表示されたエンプレス、ビショップ、セイリオスが消える。
「撃破数更新といくぞ」
「もちろんだ!」

   

「準備はどうだ!?」
「姐さん、数が半端じゃねーんだ。それにこうも寄ってこられちゃ仕掛けどころじゃ――うわぉ!」
「泣き言は後にしな! それならその煩い音楽を止めちまいな!」
「それだけでは幾ら姐さんの命令でも聞けねーよ! それに、これであいつらの耳はTOYなはずだぜ!」
「まったく、素直に周波数ジャマーだけにすればいいものを。ジョニー! 敵の視界は!?」
「妨害中です! ただ、奴らの移動速度が速くて、なんとか三分の二までをカバーするので精一杯――危ねー、伍長ありがとうございます!」
「気を抜くな! 来るぞ!」
 四機の迷彩塗装を施されたアーセナルが、地上と空中を一体となって行動する。時折、ギガント級から放たれる大口径レーザーやミサイルなどの流れ弾が飛んでくるため、目の前の敵だけに集中するわけにもいかない。
「姐さん! FEMPは仕掛け終わったぜ!」
「壁まで後退する!」
「了解!」
 ファルコンが殿を務め、壁際へと下がる。遠距離からの攻撃はあるが、必要以上に近寄ってくるイモータルはいない。坑道で出会った敵と武装こそ似ているが脚は無く、ホバー移動により地上、空中を一定の速度で機動している。
「ダメだ!」
「ジョニー、どうした!?」
「あいつら、動きが複雑すぎる!」
「ちゃんと報告しな!」
「レーダーを見て!」
「何だって……」
 敵は四人を追ってくることなく、仕掛けたFEMPの範囲外を避け、壁際へと四人を追い込む形で隊列を組んでいる。壁からの砲撃を潰しつつ、ジリジリと迫って来る。
「くそっ! 新型ってだけでこうも賢くなるとはね」
「どうします!?」
「このままじゃあ、囲まれちまう。左端の敵へ集中攻撃。旋回しつつ、敵の包囲を抜ける」
「了解!」
「撃て!!」
 一斉に端の集団へと猛射する。同時にブースターを吹かしながら、地面を駆け、敵の後ろへと大きな弧を描くように脱出を図る。敵もその意図に気づき、大きく膨らんだ囲みを止め、まっすぐに左方向へと向かってくる。正面となった敵数体が猛射をもろに浴びる。ライフル弾がイモータルの体を貫き、一部を露出させる。
「これは……まさか……」
「奴ら、イモータルじゃない、人間だ……」

   

「さあて、クリムゾンとディアブロが殺る前に、どこまで堕とせる?」
「エンプレス、いや大尉」
「エンプレスで構わない、その方が気楽だろ」
「そういう事なら、遠慮なく。エンプレス、軍曹たちが追い込まれてる。どう動く?」
「大尉、私が考えるにどうにもあのイモータルたちは妙だ」
「妙?」
「ああ。いつものイモータルたちであれば、あれ程に慎重な行動をしない。彼らの長所だが、情報を全ての個体で伝達するため、個体が破損したところで影響は無い。ましてや、その体は修復できなくとも、製造すればいい。余程特殊な個体であればともかくとして、あの集団、まさにあの集団の動きは人間の様だ」
「全員、聞こえるか?」
 HDI上へドレイクの顔が投影され、全員の顔が投影される。
「どうした?」
 クリムゾンの問いに答えるように、一枚の写真が映し出される。
「奴ら、イモータルじゃない! いや分からないけど、ただのイモータルじゃない!!」
 イモータルの体が破壊され、一部露出した部分には四肢を無くしイモータルと融合した人間、アウターが見えていた。拡大すれば、その目に宿る憎しみまでが伝わってくる。
「少佐、あたしたちは一体、どうすれば、これはどういうこと……」
「軍曹!」
 いつもの穏やかなクリムゾンの声音では無い。全員の動揺が吹き飛び、クリムゾンの次の言葉に集中する。
「我々の任務は本エリアの敵を殲滅、防衛することだ。敵が何者か、詮索は後でいい。今は敵の撃滅、そして生き残ることを優先させろ。全員、いいな!」
「了解!」
 頷く者、返事を返す者、それぞれだが皆一様に顔は明るい。いつもと変わらないバレットワークスがここにある。
「少佐、提案ですがね」
「ビショップ中尉」
「奴らの中が疑似アウターでも無く、正真正銘のアウターなら、むしろやりようはあるかと」
「つまり?」
「正確なデータが無い限り推測でしかありませんが、相手が人間となればその数には限りがある。我々より多いとしても全滅は免れたいはず。ならば退路を断たず、数を減らすことに集中すべきだと考えます。最大戦力と考えられるそちらのギガント級は倒してもらう必要がありますがね」
「分かった。私とディアブロは継続して残り一体を撃滅。他は無理をせず、数を減らすことに集中してくれ」
「了解!」
「なら、とっととやるよ! ルーキー、前に出な。フェムト兵装で集中攻撃、私とビショップは援護する」
「俺が先鋒で?」
「行きな!」
「了解! フォー、フェムト兵装を使う!」
「フェムト兵装、ロック解除します」
「シールドモードを選択。同時にダークマンティスを解放」
「どうぞ。あなたの思考波と視線に合わせて制御、目標決定を行います」
「フォー、頼んだぞ! セイリオス、先行します!」
 フェムトエネルギーを周囲に展開し、一時的に球体状のエネルギーフィールドを展開する。実弾兵器にはやや効果は薄いが、弾丸の推進エネルギーを少なからず奪うため威力を弱めることを可能とする。フェムトを使ったエネルギー兵器であれば、その効果は絶大な効果を得る。
 両手にライフルを構え、目の前の敵に火線を浴びせる。ダークマンティスから放たれた自律兵装が敵の死角から攻撃を行う。エンプレス、ビショップがそれぞれ上下左右から行動範囲が絞られるように攻撃を行うため、敵に逃げ場は無い。
「一体目」
「気を抜くなよ。敵はこっちの戦術に気づいたぞ」
 こちらの数を上回る六機が向かってくる。だが、同時にギガント級へ四機が向かう。ジョニーたちは四機を堕とし、今は九機を相手に戦っている。やれない数じゃない。
「行きます!」
 敵の真ん中へと一気に突進する。同時に盾とバズーカに持ち替える。が、そのまま最も近い敵へと盾を投げつけ、盾へとバズーカを放つ。
「セイリオス、何をやって!?――やるねぇ!」
 盾の裏に設置したFEMPをバズーカの爆風で起爆させる。六機のうち、四機は範囲から逃れ損ね、一時的に麻痺し落下を開始する。すかさずエンプレスとビショップが敵に喰らいつき、一気に葬る。
「あと二体」
 ダークマンティスの六機ある兵装のうち二機がFEMPの範囲内だったため、バズーカの攻撃に巻き込まれ、残りは四機。
「シールドモードを解除。ミラージュを解放」
「シールドモードを解除。ミラージュを解放します」
 地上へと逃れた敵の二機へとフェムトで作った自分自身の分身と共に肉薄する。二体の反応は速い。臆することなく間を縮め、装備された巨大な刃を振り下ろす。
「当たるかよ!」
 この攻撃なら坑道で知っている攻撃だ。二体が繰り出す刃を躱す。だが、ホバーに見えた両脚から、腕とも足ともつかぬ機構が展開する。そこに握られた二本のフェムトブレードが違う軌道で迫る。
「殺られる!?」
「殺らせないよ」
 エンプレスの左右のライフルからバーストモードで射出された弾が的確にブレードを狙撃する。そしてもう一体のブレードをミラージュが破壊する。その隙を見逃さず、姿勢制御をオフにし、地上へ向けてバズーカを発射する。その反動でもう二体の位置から数メートルの位置へ飛び上がる。同時に制御をオンに戻し、ブーストを全開にし、敵の頭上へ全力の蹴りを放つ。ぐしゃっとひしゃげた頭を貫き、そのまま着地する。
「あと一体!」
 着地と同時に体を旋回させ、もう一体から距離を取る。だがその目の前でエンプレスとビショップの攻撃を受けたイモータルが地面へと倒れ伏す。
「良くやったな。やるとは思ってたけど、ここまで腕を上げるとはね」
「それなりに、修羅場は潜ったからな」
「言うじゃないか」
「二人共、見ろ!!!」
 ビショップに促され、周囲を確認する。ギガント級は全て倒れ、いや……。
「増援だと!」
 レーダーに映し出された機影、それは無数の正に無数のイモータル。
「この数をやるのか……」
 歴戦の猛者たるバレットワークスですら、言葉を失うその数。レーダーに映った点は遂に視界へ実体となって姿を現し始める。イモータルを動かす熱源によってその姿は揺らぎ、次第に響いて来る足音が、恐怖を生み出す。
「密集隊形! 円陣を組み、戦闘態勢を整える!」
 クリムゾンの号令一下、何とか自分を取り戻した面々が防御円を作り上げる。
「到達までの時間は!?」
「最前列とはあと五分で接敵します」
「全員、空中へ上がるな。身を隠し、被弾率を下げろ。ビショップ中尉! ジョニー上等兵! 敵の視界を晦ます。ありったけのトラップを仕掛ける——」
「少佐……」
「何だと……」
 レーダーに映った光点とは別の方角から、さらにイモータルを示す光点が現れる。その数は今やレーダーから溢れんばかりだ。
「こんなの、どうすんだヨ!」
「泣き言を言うんじゃないよ! バレットワークスなら最後まで戦い抜きな!」
「残念だが、この戦局では無駄死にするだけだ。バレットワークスはこの場を放棄、撤退する」
「撤退って言ったってどこに!?」
「風が吹く……とても大きな」
「ファルコン伍長?」
「なんだ、これは……」
 目の前へ迫る増援部隊をさらなる増援部隊が、イモータルがイモータルを襲っていた。人為らざる者たちの叫びが轟き、破壊のための破壊が繰り広げられる様はまさに悪夢そのものだ。
「何が、起きているんだ……」


――――つづく

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