Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第3章−8

[自室:オービタルベース内]
 幾多の太陽が生命を生み、幾多の太陽の死と共に、生命は命の輪を閉じていく。膨大な記憶の海から時として、波として打ち寄せる私が私を思い出させるが、雨の中の涙のように、消えてしまう。
「レンサノシュウフク……」
 観測と同時に存在する生命が、私に使命を思い出させる。壊れた連鎖、の修復。寸断された糸を繋ぎ、拵え、手繰り、また別の糸と絡めていく。だが、織り方はどうする?

「痛っ……」
 激しい頭痛に思わず手を額に当てる。頬が濡れている。涙、痛み――夢。
 見たことは覚えているが……思い出せない。とても重要な事な気がする。寒さ、孤独、そして焼けつくような暑さ、虚脱感。
 喉が乾く。全身が訴える渇きに、ベッドから降り、水を飲む。外よりもオーヴァルの水の方が安全とは皮肉な物だ。アーセナル、アウタースーツの技術が応用され、徹底されたその濾過システムは安全な空気と水の供給を可能としている。外の世界ではそうはいかない。上層階級の奴らはともかく、俺たちアウターや一般人たちが飲む水はどう処理されているのか、分かったものじゃない。
 一杯の水に落ち着き、時間を確認する……確認した……ヤバい……。集合まであと五分しか無い。
「うわぁあああ!」
 スーツを着こみ、猛ダッシュする。これまでの戦場でも感じたことが無いほどの緊張。すれ違う人々が眉をひそめるが気にしてなどいられない。扉の自動開閉のたった五秒にもどかしさを感じる。

「おっと、ルーキーのお出ましだ」
 ジョニーの言葉に心臓が縮み上がる。部屋の中には准将を中心にバレットワークスの面子が皆揃い、視線が俺に集まっている。
「揃ったようだな」
 准将に皆が向き、視線が逸れる。思わず、ほっと胸を撫で下す。ジョニーの背中が小刻みに揺れている。笑いを堪えているのがバレバレだ。
「顔を合わせてのブリーフィングは初めてか?」
「はい、初になります」
 軍隊にいた事なんて無い俺だ。何て答えるのが正解か分からないが、素直に答える。
「ふっ、そう緊張するな。楽にしていい。正規の軍隊では無いからな」
「はい」
 そうは言われてもこの面子の中、なかなか楽に出来るものじゃあない。
「先日の件だが、テラーズへの制裁申請は却下された」
「!?」
「そんな――」
「でしょうな」
 ビショップの冷静な返しに、何名かが勢いを削がれる。ビショップは続けた。
「実際のところ、彼らは規約に何ら違反はしていない。戦力の削り合いが避けられていたのは可能な限りオーヴァル内での実行可能戦力を減らさない、あくまで暗黙の了解という実に曖昧とした意思が働いていたからに過ぎない。まして――」
「奴は唯一人、自由裁量権を持っている」
 沈黙が重い。
「で、Disられて黙ってるおやっさんじゃ、無いでしょ。おやっさんがやらないなら、オレ様が殺ってやる。この命は伍長にもらったんだ。命の落とし前は命でつけさせる」
「私が説明しよう」
 クリムゾンが一歩前に出る。准将が頷く。
「現在、テラーズの意図は不明だ。よって、これまで准将とビショップ、ペインキラーが探りだしてくれたことからの推測に基づいて作戦行動を取る」
「ペインキラーが?」
「そうだ。これから言うことはほとんどの者が初耳のはずだ。まず誤解しないようにして欲しいのだが、彼はオーヴァル内、傭兵の間で取り交わされる情報や、オーダーで得たイモータルの性能や能力、それによって開発されるオービタルでの兵器の情報をゼンへ渡すためにバレットワークスへ潜入していた」
「何だって!?」
 あの中尉がスパイ?
「黙って続きを聞け」
「彼は家族のためにそれを引き受けた。だが、そのことを我々に打ち明けてからは逆にゼンから得た情報を提供してくれていた」
「彼の名誉のために言っておくが、私も似たようなものだ。ホライゾンの潜入工作員としてオーヴァルに潜入したが、工作員たちのリストが漏れ全員が切り捨てられた。私は運良く准将に拾ってもらえたおかげで今もこうして生き永らえているがね」
「皆、それぞれの人生を背負ってこの場にいる。だが今はバレットワークスだ。それを忘れるな」
 准将の一言に皆が頷く。
「続けるぞ。断片的な情報ではあったが、推測はこうだ。三つの共同体が決着をつける気になったということだ。三者鼎立はついに崩れる。そうなれば、オーヴァル内のイモータルと傭兵、オービタルは無用の存在だ。自分たちの支配下に置ければよし、そうで無い者を粛清するつもりだ。テラーズが何らかの役割を担い、それぞれの戦力を削る行動を取っている」
「そりゃ、俺たちとイモータルが死ねば都合がいいでしょうけど、そんな簡単にくたばったり言うこと聞くようなタマがいますかね?」
「ま、あんたよりは皆しぶといだろうねえ」
「ちょ、姐さんそりゃ無いっすよぉ」
 空気が一変し、皆が笑顔になる。
「当面の間だが、隊を准将とビショップ中尉、ディアブロ少尉の三隊に分けて行動する。准将と私、伍長は偽装破壊活動、中尉はオービタル内での情報収集、少尉以下五名は通常オーダーを受けて行動とする。何か質問はあるか?」
「あの……」
「セイリオス二等兵、何か?」
「あの、偽装破壊活動っていうのは?」
「それには私が答えよう。アーセナルが統一規格で出来ていることは周知の通りだ。そして都合の良いことにイモータルはアーセナルを自分たちの体として使っている。それを利用する」
「しかし、それだと識別信号でバレるのでは?」
「もちろんそうだ。だから、奴らの固有信号を発信する装置を作った」
「そんな事が!?」
 ビショップの言葉に、バレットワークスの面々も思い思いに声を上げる。
「不本意ではあったが一部の部品にガルガンチュアの手を借りた。信号周波数の発生部分がとても厄介でね。もっとも彼らが行っている”会話”は出来ない。だからあくまでこれは短時間でのイモータルとの接触または、偽装活動でしか使えない」
「あの筋肉バカ?」
「ルーキー、それは正確では無いな。彼は高い知性と筋力を合わせ持ってはいるが、粗野な行動が目立つ、特に言動がお粗末と言うべきだ」
 皆が笑い、准将とクリムゾンまでもが苦笑している。当の発言をしたビショップは眉をひそめている。彼からすれば”正確”に人物評をしたにすぎない。
「何故、破壊活動なんですか?」
「不可侵領域や施設にも堂々と入ることが可能だ。そして何よりも奴らの対応が必要となれば、我々の必要な時間を稼ぐことにもなる」
 なるほど、ようやく理解して俺は頷く。
「他には? 無いようだな、それでは解散」
 全員が敬礼をする。俺も見よう見真似だ。
「しかし、ルーキーがあと8秒遅ければ、全員オービタルベース内の一〇〇周ランニングだったんだけどね」
 部屋を去りかけていた全員の視線がドレイクに集り、次に俺を凝視する。その目が、表情が訴えかけている、絶対に遅れるなよ、と。無言の圧力に頷き返す。ジョニーが俺の隣に近付き、耳打ちする。
「ルーキー、分かったと思うがあれは冗談じゃないからな」
「分かった。絶対に遅れない」
 ジョニーにそう答えたが一瞬後悔が脳裏をよぎる。自信が無い……。      

  
      

*  *  *


  [ハンガー:オービタルベース内]
「おいおい、やったなこの野郎!」
「まあな、痛っ!」
 ザックが俺の背中をバンバンと叩く。喜んでくれているのはいいが、力は加減して欲しいものだ。アウターだって痛いものは痛い。
「それと同じやつな、入れておいてやったぜ」
 左上腕に貼られた隊章、それと同じものがアーセナルの左肩にペイントされ、機体色が白とグレーを基調とした迷彩になっている。色自体は自分で選んではいるが、迷彩はバレットワークスで統一されたペイントだ。レーダーがあるため迷彩自体に効果は無いが、電子機器が効かない、または破壊された場合での戦闘を考慮してとのことらしい。クリムゾン少佐の機体色は自分を攻撃してくれた方が、仕留めやすいという理由だと聞いた。恐ろしいにも程がある。
「いいね」
「だろ。塗装自体は自動処理だけどな」
 自動処理で何で自慢できるのかは不明だが、小刻みに顎を振るザックの表情は得意満面だ。
「装備も終わってるぞ」
 いつもの仏頂面ではなく、アーロンもどこか喜んでいるように思える。准将の計らいで、新しい装備となった俺のアーセナルは一段と頼もしい。アーマーはロングソードのままだが、武器に新型のグリムリーパーⅡ、より対弾性能に優れた盾ガイアプレート、ミサイルにサンダーバードの弾倉追加型、ブレードにノーブルプライド、フェムト粒子を応用したレーザーライフル、スターゲイザー。そしてフェムトアンプリフィタンク。俺の放ったフェムトエネルギーを再吸収、貯蔵することでよりフェムト兵装の使用時間を伸ばす装備だ。
 戦いに行けば生きて還れるという保証は無いが、新しい兵装を前に使ってみたいという興奮の方が勝ってしまう。
「俺、何倍も強くなった気がするぜ」
「バカたれが、大体お前ら傭兵って奴はすぐに何かを成し遂げた気になりやがる。そして、あの世へ行くことになる」
「おいおい、おっかねーな」
「そうなりたくなきゃ、使い方をちゃんと見ておくんだな」
「そうするよ」
 アーセナルへ滑り込み、ドラムドライブへと移動する。
「ま、気をつけな」
「活躍期待してっぜ!」
「行ってくる!」       

  
      

*  *  *


  [スカイユニオン支配領輸送経路峡谷:オーヴァル]
「ルーキー遅れるなよ」
「はい!」
 返事はしたものの、少尉を見失わないようにすることで精一杯だ。機体のちょっとした動きがコマが飛んだ動画のように再生される。ディアブロ、漆黒の悪魔。その名は伊達では無い。少尉率いる隊、俺たちはオーダーを受け通常どおり作戦行動を行う。特殊行動がばれないための偽装でもあるが、そこから見える物もある。特に他の旅団の動きを確認するには、オーダーで共闘するのが一番分かりやすい。
「合流地点だ、あれだな」
 HDIを見るまでもなく、肉眼で二つの機体が見える。装甲の王冠のクィーンとイノセンスのジャックだ。
「ルーキー、あんたバレットワークスに入ったんだって?」
「やあ、君が噂のルーキーだね。僕はジャック。クロウ兄さんとチルから活躍は聞いてるよ」
「ええ、色々あってそういう事に――ありがとう。けど君がジャックなら、俺の活躍なんて塵みたいなもんだろ?」
「大人気だな、ルーキー」
「えっ! うわっ! やっぱりそうだ! ディアブロ! 本物だ!」
「おやおや、あんたのファンみたいだよ、その子」
「そりゃそうですよ! 僕らと同じ歳の時にはもうキルスコアも十本の指に入っていたんですよ!」
(それは知らなかった。とんでもないな……)
「大した事じゃない。俺より強い奴が少ないってだけの事だ」
「かっ、言うねぇ」
「君だろ、不死隊のラッキーボーイっていうのは。顔を合わせるのは初だな」
「ぼ、僕のこと、知ってるんですか!?」
「生還不可能だと思われたオーダーで生き残り、達成を果たすラッキーボーイ。俺じゃなくても、傭兵ならみんな気になるだろ? どんな仕掛けがあるのかって、な」
「いやあ、それを言われるとなんていうか……嘘をついてるわけじゃないんだけど、奇跡の生還って感じでもないんです。詳しくは言えないんですけど」
「いいさ。切り札は見せない方がいい。昨日までとは状況が違うからな」
「テラーズか……あいつらを殺るなら手を貸すのもやぶさかじゃあ無いよ」
「何でだ?」
「どうしてです?」
「どうにもね、あいつらは――」
「あと三十秒ほどで目標エリアです」
「はいはい、そうだったね。イモータル共が造った壁を壊せばいんでしょ?」
「その通りです。スカイユニオンが主要輸送路として使用している経路上に建設されているため、オーヴァル中心への物資輸送率が八%低下しています」
「でもさ、中心って奴らの支配域でしょ? だったら何でそんな所に物資を運んでいるんだ?」
「我々の最終目的である、オーヴァルの全領域の制圧のためのものです」
「作戦エリアは深い渓谷地帯だ。気を付けろ、こっちは敵から丸見えだ」
「はん! そんなの壁に取り付きさえすれば砲台は使え無い。まさかいくら何でもせっかく造った物を撃ちはしないでしょ」
「さあな、言ったそばから、だ」
「後背から多数の敵性反応を確認。待ち伏せされていたようです」
「前からも来てる……挟み撃ちか。頭いいね、こいつら」
「感心してる場合じゃ無いよ! ちっ、こざかしい真似をしてくれるじゃないの! よっぽどあたしをキレさせたいみたいね……!! ウラァァァアアア!!」
「うわ。援護します!」
 前の敵へ進んで突っ込んでいくクィーンに続き、ジャックが続いて前に出る。
「ルーキー、ああいう戦い方はするなよ。壁を背にして全方位から攻撃を受けることは避けろ」
「少尉は?」
「俺は後ろの敵を受け持つ。クィーンとジャックを援護しろ」
「了解!」
 少尉の戦い方を見てみたかったが、まずは敵を片づけるのが先だ。向かってくる敵を数撃で破壊出来る。そのうえ派手に吹き飛んでいく。これまでより小型の敵というのもあるのだろうが、装備がこれまでより格段に良くなっていることを実感する。
「これなら、いける」
 敵を破壊しながら、リーダーを探す。
「うん?」
「ルーキー、どうした?」
「何だろうな……何かおかしくないか?」
「それ、僕もさっきから感じてたんだ」
「何、もっと大きな声でいいな! 聞こえないよ!」
 外部音声をオフにするか音量を下げればいいものを、クィーンはそのままの音量で戦っているようだ。
「リーダーが見当たらない! っていうか、こいつらなんで回避しないんだ?」
「こいつらに聞きな! 聞けるもんならね!」
「え? うわぁああああ!」
「ジャック!」
 ジャック機の左腕が吹き飛んでいる! さっきまで順調に撃破していたはずなのに、何が起きた?
「ジャック! 平気か!?」
「稼がなきゃならないのに、怒られちゃうよ。あ、ああ大丈夫! こいつらただのイモータルじゃない。機雷だ!」
「機雷だって!?」
「フォー、どういう事だ?」
「攻撃機能こそ持っていますが、目標へ接触し自爆。直接ダメージを与えることを目的とした特殊攻撃体です」
「何てこった……」
 さっきから覚えていた違和感。確かに兵装が強くなったこともあるのだろうが、単純な動きをする敵だから攻撃が当たる。自爆兵器だから、思った以上の爆発が起きていたということだ。
「ここにはリーダーはいない。いるとしたら、もっと奥」
「こいつらが建設中っていう、壁だな」
「だろうね! 頭を叩かなきゃねぇ! シャァアラァァ!」
 ブースターを吹かし、最大速度で峡谷の奥へと侵攻する。取り付かれたら一気に詰みだ。
「フォー、少尉は?」
「ディアブロ少尉は、後方の敵約九十%を殲滅。残りを殲滅しながら、こちらに向かっています」
「さっすが、バレットワークスのエース。やるじゃないの!」
「うわ、どうやってるんだ?」
(俺も知りたい)
「敵の行動を利用して、敵を一か所に集めることで敵同士を誘爆させています」
「敵を引き連れて集めてるってことだよね?」
「その通りです」
「それって……まったく、すごいな」
「さあ、こっちもやるよ! 見えてきた!」
 クィーンの言う通りだ。敵が建設している壁が見えてくる。圧巻だった。様々な材料を寄せ集めたのだろう、峡谷から空へと伸びる不定形の建造物はまるで城のようだ。その威容はまさに、空にそびえる黒鉄の城。
「ダリャアアア! とっとと殺やるよ!」
「了解! このまま一気にやろう!」
「少尉が来る前に片づけて、いい所見せてやるぜ!」
 壁へ攻撃を開始する。壁のあちこちから機銃やミサイルが発射され、弾幕の中反撃するも、巨大な壁のどこに何があるのか分からない。
「楽しくなってきちゃったぁぁ! ヒャーッハァァ!」
 クィーンは完全に戦闘モードだ。片っ端から攻撃をしている。ダメージは与えているのだろうが、巨大な壁に効果があるのか全く分からない。
「ルーキー、これヤバいと思うんだけど。僕だけ?」
「そう思うのか?」
「こんなの見たことが無いよ。奴らに占拠された施設や作り変えられたものはあったけど、これ何なんだ!?」
 確かに。そもそもどうやれば、この壁を壊せる?
「壁を越えてみる! このままじゃあ、弾薬が切れて終わりだ! クィーン、ジャック、援護を頼む!!」
「行ってきな!」
「援護します!」
「フォー、フェムト兵装を使う!」
「フェムト兵装、ロック解除します」
「行くぞ!」
 フェムトエネルギーを移動制御装置へ全注入する。エネルギー兵器は使えなくなるが、この間、通常よりも遥かに速い推進力を得ることが出来る。
「うぉおおおおお!」
 体にかかるG(重力加速度)に耐え、一気に壁を越えた。越えたつもりだった。そこには、遥か先まで続く長く太い無数のパイプがあった。その先、壁の後ろには無数のイモータルが蠢き、そこには……。
「何てこった……」
「ルーキー、セイリオス二等兵!!」
「少尉?」
「到着した。戦闘が膠着しているようだが、状況を報告しろ」
「それが、壁は、これは、こいつは、こいつは巨大な”盾”です!」
「どういうことだ?」
「後ろに少尉と少佐が倒した大型イモータルよりさらにでかい奴がいて、その後ろで何か施設を建造しているようです」
「そうか」
「少尉?」
「この程度で、バレットワークスが勝てないと思うのか?」
「どうするんです?」
「クィーン、ジャック、聞いていたな?」
「聞いてたわよ」
「はい!」
「ルーキー、そちら側でパイプを破壊しろ」
「どういうことですか?」
「フォーの計測結果から、施設と巨大イモータルへ続くパイプは高い確率でエネルギーの供給を行っている」
「なるほどねぇ」
「どういうこと?」
「二人とも、分かるように説明してくれませんか?」
「あんなでかいモノを持っているような奴だ。燃費が悪すぎるのさ。さらにあいつが操っている自動機雷やあいつを守っている虫ども、それらが喰っていくためには大量のエネルギーがいる」
「前線の拡大と確保のためだったのだろうが、エネルギー供給を断てば奴ら本来の力は出せないはずだ。ルーキー、お前がそちらで攻撃をすれば奴らはお前に攻撃を集中する。その隙に俺たちは盾を越える」
「了解」
「各自、理解したな?」
「はい!」
「当たり前さね」
「十秒後に攻撃を開始。ルーキー、生き残れよ」
 HDI上でカウントが開始される。十……七……四……三……零!
「いけぇええ!!」
 ミラージュを開放し、一気に攻撃を開始する。敵からの弾避けにもなる。周囲にいた敵だけじゃない、壁の向こうからも敵がこちらに向って来る。巨人の片腕、盾を支えていない腕がこちらを向く。あんなデカい大砲は見たことが無い……。
「行け!」
 ディアブロの号令と同時に、三機が盾を越える。
「ルーキーの援護を!」
「任せときな!」
「間に合えぇ!」
 敵の攻撃を盾で防ぎつつ、パイプの破壊に専念する。周囲で爆発が起きる。俺に取り付こうとしていたイモータルを二人が破壊してくれたらしい。しかし、デカ物の発射口にエネルギーが集まり、轟音と共に光が機体の横を通りすぎた。熱で盾と機体が溶け、一瞬フィードバックで異常な熱さが体を通り抜ける。
「くぅおお!!」
 俺を狙っていた大砲があらぬ方向を向き、巨大イモータルが苦鳴を上げている。大砲を支える肘が半ばまで切断され、その腕をディアブロが峡谷の壁へ押さえつけていた。
「急げ!!」
 イモータルの攻撃を躱しながら三機がかりでパイプへ攻撃する。遂に一つが火を吹き、連鎖的に爆発が起こる。修復しようというのだろう、爆発も顧みずイモータルたちが破壊された箇所へ集まっていく。だが、さらに誘爆を引き起こすだけで被害が拡大していく。
「上空へ回避しろ! 爆発に巻き込まれるな!」
 誘爆した爆発が峡谷全体へと拡がっていく。皮肉なことに巨大な盾が破壊から峡谷を守っている。
「凄い……」
「あの中じゃあ、奴らも生き残れないだろうな」
 炎の海が峡谷を飲み込む。巨大イモータルも炎の海に飲まれ、今はその姿を見ることが出来ない。まさに地獄だ。
「フォー、確認して。動体反応はある?」
「現在のところ、私たち以外に反応はありません」
「なら、任務達成かしらね。フォー?」
「オーダー達成を確認。帰還しますか?」
「今日はもうゆっくり休むよ。腹が減ってもう動けないよ……」
「なんだいなんだい。男の子だろ」
「ハハハハ。確かに俺も腹が減ったな」
「おやおや、ルーキーあんたもかい。フォー帰還するよ。腹が減ったとさ」
「ルーキー、お前は先に帰投しろ。俺は確認したいことがある」
「何か気になることでも?」
「いや、あいつが死んだか確認をしていない。確認してから帰投する」
「おやおや、真面目すぎるのも考えもんだよ」
「了解。セイリオス二等兵、帰投します」
「帰還シーケンスを開始します」


――――つづく

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