Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第3章−4

[自室:オービタルベース内]
 けたたましいアラームに、思わず跳ね起きる。
鳴っているのはHDIの呼び出し音だ。
「誰だ?」
 発信者はジョニーだ。まったく、何の用だと思うが数少ない知り合いだ。受信ボタンをタッチする。
「おいルーキー、どうしたその顔」
「あ?」
 ウィンドウに映った俺の顔を見て笑うジョニーに、自分の顔を確認する。寝ている時についた跡で顔がおかしい。よほど熟睡していたのだろう。
「はははは。今日はちょっとお前に頼みがあるんだ」
「頼み?」
「聞いてくれるか?」
「いや、頼みによる。出来ないことは無理だぜ」
「そりゃそうだ。ま、頼みっていうのはうちの団員と任務を受けて欲しいんだ」
「なんだ、バレットワークスと受ける任務なら、楽勝じゃないか。むしろ、こっちがお願いしたいくらいだ」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだが、ちょっと問題ありな奴でさ」
「問題あり?」
「ブリーフィングに出てもらえれば分かる。今、他の任務で団員は誰も一緒に行けないんだ。それでお前に相談してるってわけ」
「分かった。まあ、出てはみる」
「任務はすぐ分かるはずだ。面子が面子だからな」
「了解」
 通話を終わり、現在のオーダーを呼び出す。ブリーフィングに参加しているメンバーを見るまでも無く、明らかに参加している顔ぶれが異様なオーダーがある。スカイユニオンからの依頼だ。オービタル管理下にある保護区域でデータ保管施設の周辺の防衛。これだけだ。簡単な任務に見えるが、そういう時ほど裏があるもんだ。
 オーダーには見たことの無い顔ぶれが二人。ガンズ・エンプレス。装甲の王冠のリーダーで、キルスコアは全傭兵中五本の指に入る。その美貌と性格故に他の傭兵団やウォッチャーに一定数のファンがいるが、ファンの突撃インタビューに対して「女の趣味が悪すぎるから死ね」とコメントしている。その十分後、インタビュアーの頭を灰皿でかち割り、以降メディアでは、扱いが要注意人物となっている。
 左右で歪みが無く、黄金律が奏でられそうな華やかな顔立ちに藍緑色に染められた髪は無造作に後ろでまとめられ、聖人の頭光のように顔を彩っている。整形や改造でどんな顔立ちにでも成れるが、これは別の何かだ。
 もう一人がジョニーからお守りを頼まれたメンバーだろう。分かる気がする……。団の中でも一人だけ世の中に出ている情報がおかしい。有名なグラフィティアーティストで、傭兵となった今でも作品を発表し続けている。戦績は芳しくなく、何故こいつはバレットワークスなのかが分からない。褐色の肌にコーンロウを独特のアレンジをした髪型は、なかなかの迫力を醸し出している。


「任務としては単純だけど……気になるわね。オービタル施設の防衛をどうしてスカイユニオンが費用をかけてまで行うのか、理由が知りたいわ」
「そう、そうそれだゼ! オレっちもそれが気になってたのヨ!」
「おや、あんたうちの二人が言っていた新人だね。なかなか良い腕をしてるらしいね」
 ウィンドウを指でつつき、俺を指して来るエンプレスの表情にぞっとする。光の加減のせいだろう、目に何の表情も無い洞のようだ。
「ジョニーからあんたの事は聞いてるぜ。よろしくな!」
「よろしく」
 (確かに、エンプレスの言うとおりだ。気にも留めなかったが、オービタルの施設をスカイユニオンが金を出してまで守るなんて、変な話だ)
「データ保管施設には”目覚めの日”以前の記録が収められており、これを遺失することはスカイユニオンにとっても望むところではありません」
「”目覚めの日”以前の記録? もしかしてそれって――」
「まさか、図書館(ライブラリィ)か?」
 こいつだ。このブリーフィングが特に異様な雰囲気なのは、こいつセイヴィアーのせいだ。そもそも俺が入った時に、挨拶すらしてこない。
「イエス、マイロード。その通りです」
「はあ? トショカン? なんだそりゃ」
「物理的な本を収集し、保管するための施設です。一般市民に本を貸し出すこともあったようです」
「フォー、それは本当の図書館。そいつが言っているのは、図書館、美術館、過去の旧情報統合施設、通称”ライブラリィ”の事よ」
「どーっちでもいいよ。オレっちは生まれてこの方、紙の本なんて読んだコトねーし。ルーキーだって知らないよナ? 知りたいことがあるなら、フォーに訊けばそれで済んじまう」
(この間、読んだばかりだが、見たという方が正しいのか? とりあえず黙っておこう……)
「必要な情報があれば、オービタル及び各共同体のデータベースから必要な情報を提供しますよ」
「ほらナ? 最新の音楽でもコミックでも、訊けばすぐ出てくるってんだからヨ」
「そうね、前世紀の遺物。それにしてもライブラリィね……データ保管施設とはよく言ったものだわ。デジタル化すれば少量でしょうに」
「データの保管方法として非効率的だというなら、その通りだろう。だが、決してデジタルデータには、変えられない物がある。本の装丁には、触れた者たちの想いがこもり、美術品には人間の苦悩や喜び、魂が刻みこまれる。人類が歩んできた歴史そのもの、それが文化だ。
魂のないAIに破壊させるわけにはいかない」
「ワオ、文化ときたか! いい響きだ! 俺のグラフィティやHIP-HOPも文化だよナ! 芸術はバクハツだゼ! イェア!!」
「くだらん。芸術というには、稚拙すぎる」
「Disるつもり?カビ臭ぇ、あんたに理解してほしいなんて思ってねぇヨ」
「……決して変えられないものね」
「生きていくためのパンよりも、一遍の詩の方が人間にとって大切なこともある」
「はっ、あははははは! ただの温室育ちかと思ったら、面白いことを言うわね」
「何を笑うことがある。私は真実を知っているだけだ」
「いいわ。あたしは詩も絵も理解できないし、するつもりもなかったけれど
ちょっと興味がわいてきたわね。フォー、装甲の王冠はオーダーを受ける」
「オレっちっつうかバレットワークスも受けるゼ。難しいコトはわかんねーケドよ。アーティストを名乗る者として、文化が奪われるのを黙って見てるワケにはいかねーだロ!」
「フォー、オーダーにSHELLを登録しろ。私が受けるだけの道義がある」
「俺も受けるよ」
(こうなるとは思っていたけど、まさか貴族様が受けるなんてな」
「全員のオーダーの受領を確認、登録いたしました」
「防衛が成功したら、図書館の壁にオレっちの素敵な名前をTagってやるゼ!
じゃあ後でな!」
「准将のじいさんも何が楽しくてあんなのを飼ってるんだか……」
「晩餐の時間までには、間に合わせたいものだ。では」
「じゃあ、後でな」    

    

*  *  *


[ハンガー:オービタルベース内]
「待ってたぜ、相棒」
「相棒に昇格か?」
 ザックが嬉しそうだ。気持ちは分かる。俺も楽しみにしていたのだから。
「ははは。まあな。頼まれていたやつだ。どうだ?」
 ハンガー内に立つアーセナルの胸装備がロングソードに換装されている。前の装備は多少引かれたが無事オービタルに返すことが出来た。胸と武器の幾つかだけだが、正真正銘、俺の物だ。前回の任務で交渉して得た報酬が思った以上で装備を買い替えることが出来たってわけだ。だが、半面あの任務がろくでも無いことを物語ってもいた。
 ザックに任せ、開発部門で武器を二つほど新調してあるのも楽しみの一つだ。ライフルと大剣をそれぞれ、グリムリーパーⅡ、ノーブルプライドに変更してある。
「新しい装備になると、何故か気持ちが上がるよな」
「分かるぞぉ、その気持ち。整備する俺たちも整備のし甲斐があるってもんさ」
「バカたれが。そうやって浮かれていると、足元を掬われるぞ」
「はいはい、分かってるよ」
「お前が存分に戦えるよう、整備してある。後はお前次第だ」
 アーロンの言葉に気持ちを引き締める。確かに、新しい装備を使いこなせるかどうか、自分にかかっている。装備が変わったからと言って、俺が強くなったとは限らない。
「アーロン、ザック、期待してくれていいぜ」
「待ってるぜ、相棒!」
「だから、浮かれんじゃ――」
 アーロンの小言を全て聞く前に、ドラムドライブに乗って移動を開始する。やはり、こんな世界の小さな喜びだが、嬉しい物は嬉しい。目の前に待つのが戦場であっても。      

    

*  *  *


[オービタルオービタル管理下ライブラリィ:オーヴァル]
「フェムト粒子の濃度は影響ないレベル。各機のデータリンク開始。小隊の通信回線を開きます」
「ヒャッホウ! アレが噂の図書館(ライブラリィ)か。いい壁ダ! 待ってろよ、オレっちが景気づけしてやるゼ!」
「相手がザコだからって気を抜くんじゃないよ。撃墜されたってアンタたちを助ける義理はないからね」
「Wow……まったく怖いねーちゃんだな。そういや、あいつは?」
「私ならここだ。君たちが失敗しても、私が終わらせる。安心して戦いたまえ」
「なんだそりゃ? 戦いもせずに報酬だけブン取ろうってのかヨ?」
「戦う道義はあるが、私が剣を取るときは私が決める」
「おおおおおいいいいいい! 戦わないならオーダーを受けるんじゃねえヨ! Frontin’ on me?」
「放っておきな! これが初めてじゃない、そういう坊ちゃんなんだよ。口を閉じな! 仕事だ!」
「ちっ、しょうがねーナ! くっそ、ボリュームMAX、テンションアゲていくゼ! ルーキー、遅れるなヨ! Getting up!!」
「言われなくてもな!」


 視界に入ってきた巨大な建物。いや建築物と言う方がふさわしい。ライブラリィ。その異様な風体は到底、図書館などという物では無い。巨大な塔、シリンダーが空へと伸びている。表面は熱で焼かれたのだろう黒く焦げた痕こそあるが、傷はほとんど無く、過去の物と思えない。表面に書いている文字は焦げと風化で消えかかり、ところどころしか認識できない。
「……ロ……ロ……?」
「ウロボロス、こんな所にあったなんて……」
「何!?」
「作戦地域へ到達。オービタルからの支援物資投下を開始。支援物資は各種兵装、またナノマシンによる装甲修復装置です。今回の戦闘に応じて自由に使用可能。また任務終了時には兵装は贈与されます」
「そりゃまた気前がいいんじゃなイ!」
(いや、良すぎるだろ? それに、エンプレスは名前を知っていた。こいつは何なんだ?)
 低空を飛ぶ三台の輸送機がHDIへ表示される。だが、一機は到達前にイモータルの侵攻ルートとぶつかってしまったのだろう。消滅し、二機の輸送機が上空を通り去る際に幾つかの物資を投下していく。
「絶対に守り抜けってことだよ!」
「それくらいフィーリングでどうにでもなるっしょ」
「おいおい、大丈夫かよ」
「黙りな! やるよ!」
 まずは、新しい装備を実戦で試す。イモータルたちの群れ、中心に飛び込み、リーダーを剣で瞬殺し、別の手に持ったライフルで動きの止まった周囲の雑魚を薙ぎ払う。連射性能が違う。これなら群れを殲滅するこの戦法の精度がさらに増す。
 地上では、アーティストが支援物資から出した地雷の配置を行っているのが分かる。口とは違い地味な作業をしっかり、やると思ったが、すぐに呆れた。そのつなぎ方だ。上から見ているから分かるが、汚い言葉の形になるように繋いでいる。
「ノッてきたぜ Crazyー!!」
 派手な爆炎と共に、複数のイモータルが吹き飛ぶ。
「やるじゃないか。そっちは任せたよ!」
 エンプレスは正攻法でストライを叩き潰していく。その的確さは見習うべき物がある。一体目を剣で壁に突き刺し、動けなくなったところをマシンガンで頭と胸を潰し、動きを止める。空中の敵は背中のブースター部分を破壊し、出力が下がったところをそのまま上から地面は叩きつけ、剣で串刺しにして、やはりマシンガンで頭と胸を潰している。
「やってみるか」
 手近なストライに近付くために、ブースターを吹かすが距離を取られてしまう。
「チッ!」
「ルーキー、動きを止めたいなら相手をただ狙うのをやめな!」
「え、そりゃどういう?」
「相手はAIだ。正確な射撃や攻撃ほど予測される。予測されても、相手の取る手が選べるようにしない!」
「チェスの要領だ。壁の外から来たと言っても、チェスくらいは嗜むだろ?」
「すいませんね! こちとらチェスなんてやった事なんかないっての!!」
 ブースターをさらに吹かし追いかけるが、二本の射線が後退するストライの後ろと真横に走り、後退からその場での回避を開始する。
「追いついた!」
 大剣で胴を切り下げ、落ちるストライを地上へと串刺しにする。そしてライフルで破壊。
「時に、教師が必要な時もある」
「ああ、ありがとうな」
 素直に礼を言う気になれないが、気づかされたのも確かだ。相手の選択肢をいかに奪うか。こいつらはAIだ。なまじ頭がいいだけに、ミスをしない。そこに付け込む隙がある。一度、気づくとこいつらは種類によって、動きに傾向がある事が分かる。
「なら」
 地上を走る多脚型のイモータルを掴み上げる。戦車がベースなだけに主砲は真下に撃てず、
撃った主砲は周囲の仲間を巻き込んでいる。
「遊んでんじゃないよ!!」
(遊んでいるわけじゃないんだけどな、こっちはまだまだ駆け出しなんだから色々やらせてくれよ!! それならあいつら二人に言えよな!)
 言いたいことはあるが、ぐっとこらえて殲滅に集中する。アーティストは敵を確実に倒しているが、敵にペイント弾をぶちまけたり真面目にやっていると思えない。それでもキルスコアが俺より上なのがどう考えてもおかしい。セイヴィアーに至ってはあれ以来、動く気配もなく通信も押し黙ったままだ。お茶でも飲んでるんじゃないだろうな!
「第七波。襲来します」
「嘘だろ!? まだ来んのかヨ!」
「いいねぇ! 殺って殺ろうじゃないの、上等だよ!」
「ねーさん、無理だ! もう弾薬が残ってねーヨ!!」
「だったら体当たりでも何でもして連中を止めな!」
「無茶言うなって! そりゃMADだぜ! ルーキー、お前も何か言えよ!」
「任務終了の声が聞こえるまで、戦うのが傭兵らしいぜ」
「お前ら正気かヨ!」


 HDIへ表示された敵の光点が一気に消え去り、映されている外の映像では巨大な爆炎が立ち昇っている。
「なんだヨ、あれ……」
「レーダーに新たな機影を確認しました」
「イモータルどもの加勢? 数が増えたところで……これは?
「どうしたヨ?」
「それよりフォー、新手の種類は?」
「イモータルではありません。アーセナルです。識別信号はホライゾンのものを発信しています」
「アーセナルだって? ホライゾンの識別信号? どういうことだヨ?」
「情報を確認中――少し待ってください」
「フォー、グローバル(広域)回線を開きなさい。アンタたち、どういうつもり? こっちはスカイユニオン及びオービタルのオーダーでここにいる!」
「団長、どーすんの!? スカイユニオンにオービタルだって! なんかあっちが正統派っぽいよ」
「少々想定外ではあるが任務に変更はない。目標の施設を破壊する」
「あっは! そうこなくっちゃ! 遠路はるばる来ておいて、一発もブッ放さず帰るなんて無理だもん!ストレスで爆発しちゃう!」
「邪魔をするなら、お前たちも排除する。 死にたくなければ、とっとと帰還しろ」
「あたし的には邪魔して欲しいんだけど! そしたら気にせず撃ちまくれるし!」
 グローバル回線が開かれ、HDIへ映し出されたのはリーパー。顔を見るのは最初のテスト以来だが、ウエストセブン、悪名高き殺し屋部隊。そして、シヴ。容姿だけ見ればふくよかな身体つきに、愛くるしい笑顔。顔立ちに似合わない、世界に反抗するかのようなピンクのモヒカン。だが彼女は正真正銘の異常者だ。殺人を重ねて各地を転々とし、あまりの凶悪さにウエストセブンへの編入が決まったという筋金入りの犯罪者。
「お、おい、これどーすんだヨ! 攻撃していいのか?」
「フォー! 情報は!?」
「申し訳ありません。私には情報開示権限がありません」
「ちっ、フォー、少し退けてもらうわ。坊やたち、十秒止まるからあたしを守りな!」
「了解。次の命令まで守り切る」
 遠距離から飛んでくるミサイル群を全て撃ち落としていく。正規品で無いのか、他の爆発に比べて極端に大きな爆発が起きる物がある。
「オーバーカウンター、第一防壁を回避、ワームコード侵入、送信データの暗号解除、送信元防壁、このタイプは――インターセプト。アーセナルのコードを初期化、オービタルマスターコードのコピー、モディファイリング開始――」
「はあ? ねーさん、何を――」
「これだ。ホライゾンから、施設の破壊任務依頼が出ている。あたしたちが受けたオーダーと正反対の指令。ここに何があるっていうの?」
「BeefにClossing out! イモータルに奪われるくらいなら先に壊しちまおうってコトかヨ! だけどよォ!」
「説明する手間が省けたようだな。シヴ、任務を開始、これで交信を終了する」
「イエッサー。花火大会の始まりね! ほらほらほら、行くよ~ッ!!」
 二機の攻撃がライブラリィへ着弾する。
「ナメてくれたものね……けど、スカイユニオンとホライゾン、オービタル全員へ借りを作っておくには、良い機会だわ」
「おおおおおいいいいいい! マジで連中とWARしちゃうのかヨ!」
「ガキども、腹を決めな! みんな何か理由(わけ)があってここにいる。
共同体の捨て駒ではなく、自分のために生きるなら、戦うしかないんだよ!」
「クソッタレ!! Biteな奴らに尻ごみするなんてオレっちじゃねーってかヨ! ルーキー、死ぬんじゃねーぞ!」
「当たり前だ。死んでたまるかよ! アーロンに笑われちまうぜ!」
「おや、名物親爺があんたの担当かい」
「知ってるのか?」
「あんた、運がいいよ。長生きできるかもね!!」
 リーパーとシヴと交戦に入る。とてもじゃないが、これまでのイモータルとは動きが違いすぎる。
「新米、うちの狂犬どもを倒したって聞いたが、そんなものか?」
 こちらの弾が当たるが直撃弾は無い。それに比べ、俺の方は確実に直撃を喰らっている。
「期待外れもいい所だな。カタログスペックで戦っているようでは、いつまでも三流だぞ」
「三流で、悪かったなぁああ!」
 直撃弾を盾で防ぎつつ、左右にライフル弾を散らし、退路を誘導する。いいぞ、壁際に追い込んだ。
「意図が丸見えだ。それに」
 盾で押し潰そうと突っ込んでした瞬間、視界がぐるりと一八〇度回転する。
「うっは!」
「アーセナルの使い方が分かっていないようだな」
「何だと!!」
「少し生き延びたくらいで、もう歴戦の兵士きどりか?」
「そんな事!!」
 押さえつけられている足から逃げることが出来ない。
「アーセナルはあくまで、装備しているアウターの力を変換するものだ。つまり、自分自身を鍛錬した者の経験と技量がそのまま反映される」
「何が……言いたい……」
「よほどの天与の才でも無い限り、アーセナルの能力だけで勝てる者はいないという事だ。覚えておくんだな!」
「ぐわぁあああ!」
 頭を蹴り飛ばされた衝撃で、視界が一瞬真っ暗になる。
「あんたの相手はこっちだよ!」
 エンプレスがリーパーへ射撃を開始し、俺から離れていく。
「大丈夫かい!?」
「あ……ああ……」
「こっちはわたしに任せて、お前はあっちのガキと、デブをやりな!」
「デブって誰のことだよ!」
「お前だよ!」
 背後から迫るシヴを見ることもなく、バックステップで横に並び首に裏拳をかますと同時に、足を薙ぎ払う。だが、倒れるかに見えたシヴの機体は宙に浮いた機体のブースターを瞬間的に吹かし、空中へと飛び上がる。
「いってぇぇ!」
 目まぐるしい動きに、援護する隙も無い。空中に飛び上がっているシヴへ火線を集中させる。なんとかエンプレスとシヴ、リーパーを引き離す。
「へええ 面白いじゃん! あたしが相手になってやるよ!」
「来い!」
「Dopeにいくぜ!」
 シヴに狙いを定めるが、遠距離攻撃は分厚い装甲に阻まれ、ダメージを与えていない。それどころか背中に背負った大砲がじりじりとこちらの装甲を破壊する。遠距離戦は向こうに分がある。このままではまずい。
「アーティスト、援護してくれ! 近接戦で片をつける!」
「任せな!」
 シブの周りを小さく攻撃しては離れるアーティストの動きに、シヴの苛立ちが分かる。攻撃の狙いが大雑把になっている。
「面倒臭いからずっと撃ちまくってやるよ!」
「そう来ると思ったぜ!」
「あたしもね!」
「何!?」
 背後へ近付き大剣を振りかぶる。だが、大剣ごと戦槌で吹き飛ばされる。
「くそっ!」
「あんたはちょっと待ってな」
「嘘!?」
 アーティストを片手で掴み、頭の上から戦槌が叩き下ろされた。頭が破壊され、中のアーティストが見えている。
「一キルいーただきっと♪ バイバーイ!」
「アーティスト! フォー! ミラージュを展開――!?」
 その瞬間、シヴの機体から腕が切り離される。
「きゃあっ? な、なに? 何が――」
「我はヴァランタイン家当主セイヴィアー。正義の執行者にして、世界の秩序」
「Crazy!」
「ここまでよく戦ったな。あとは私が引き受けよう」
「団長ォ! これってガチヤバじゃん!? どうすんの?」
「SHELLのセイヴィアーか! ここで動くとはな。流石に受けきれん! 退くぞシヴ!」
「あーい! 作戦領域から離脱しまぁす!!」
「ふむ、逃げたか。賢明な判断だな」
「ざまあみろ! 連中、逃げていくゼ!!」
「ガキども、あいつらを追うよ! こういう時に、戦力を減らしておく。わたしを敵に回せばどうなるか、理解してもらおうじゃないか」
「待った待った! これ以上のHitは無理だって! 見てくれよ、これ」
「こっちはまだ行ける。どうする?」
「ちっ、今はこれでよしとするしかないみたいね」
「素晴らしい。人類の宝は守ったようだな」
 聞こえてくる拍手の音が、どうにも場違いだがセイヴィアーのおかげで助かったのは事実だ。
「おめーはいい所をもってっただけじゃねーか!」
「そうだとも。正義を貫いたのは君たちだ。賞賛に値する」
「う、そう素直に言われるとヨ……オレっちも礼を言わなくちゃならねーだろうが。ありがとよ、セイヴィアー」
「礼を言われる覚えはないが?」
「危ないところを助けられただろ。正直、終わったと思ったからナ」
「なに、当然のことをしたまでだ。危険にさらされていたのが君でなくても私は助けた。
だから君が礼を言う必要はない」
「素直になったら、これかー! おめーはヨ! とにかく、この借りは必ず返すからナ! ぜってー忘れねェ!」
「はて、おかしな奴だ。何を怒っているのか、せっかくの勝利、楽しめば良いものを」
「ぐぐぐ。イラつくなあ、こいつ……」
「放っておきなさい。それか慣れなさい。今回の事は、あんたのボスにも報告した方がいいわ」
「あー、りょうかい、りょうかい。それにしても、あれ、見事だったよナ。 オービタルのコンピューターを、さ」
「……そうね。坊やたち、また組むことがあったらたっぷり可愛がってあげるわ。
フォー、帰還シーケンスを実行しなさい」
「了解しました。敵戦力の作戦エリアから離脱を確認。イモータルの残存兵力はゼロ。 データ保管施設の残存を確認。オーダーを達成。帰還シーケンスを展開、実行します」
「くそっ、今の俺じゃ……力に差がありすぎる。このままじゃ……」
 いつか死ぬ。
 言葉に出すことが出来なかった。それが現実になりそうな気がして。


――――つづく

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