Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第2章−1

[生体検査室:オービタルベース内]
 清潔に保たれた部屋は手術室と言っていいのだろう。中央に位置するベッドには患者と思われる男性が横たわっている。多くの機器がモニターしているのは、彼のバイタルサインだ。規則正しく動くデータは彼の状態が安定していることを示している。ロボットアームが動き、首筋へ液体を注入する。
 瞼が痙攣を始め、モニター群が活発に動き始める。バイタルサインが上昇し、ゆっくりと目を開く。体の感覚が徐々に戻ってくる。
「ここは?」
「――接続を承認。
おはようございます。わたしの名前はFOUR(ナビゲーション人工知能)。あなた方アウターとオービタルとの接続役、正確にはAIオペレーターです。さきほど神経接続端子の移植手術が完了しました。それに伴い<オーヴァル>でのあなたの生体データを更新、”オービタル”へ登録されます。内容に問題がなければ承認してください」

 内容に問題が? 問題があるのかどうかは分からないが表示されている画面を見る限り、承認済事項に対しての追加承認。この手のやつは危ない。簡単に承認すべきじゃない――。
「麻酔の影響でしょうか。記憶の混濁があるようですね。安心してください。手術は成功しています。あなたの健康状態は概ね良好です。自分が誰なのか思い出せますか?」
 自分が誰なのか? おかしなことを聞くやつだと思ったが事実に気づき、たじろぐ。思い出せない。顔を両手で撫でてみるが、今一つ実感が無い。その上体を確認していて気づいたが、全身が露わに……素っ裸だ……俺に何が起きたんだ!?
「分からない……お前は誰だ?」
「わたしの名前はフォー。AIオペレーターです。混乱しているのですね。そういう方もいらっしゃいます。そのような場合を考慮して――」
「いや、待ってくれ」
 混濁した記憶が戻り始める。何を為すためにここにいるのか、壁の向こうから“こちら”に来た理由が――。


      

*  *  *


 

 その日、月は落下した。
 『目覚めの日』後にそう呼ばれる最悪の日。人々は壊れた月を見上げ、目を背ける。<ステラ>宇宙ステーションを巨大な隕石となった月へぶつけたことで、幾つかの断片へと変えることに成功し、試作開発されていた重力制御装置による効果は十分だったとは言えなかったが、少なくとも人類の死滅は免れた。しかしかつての星の姿、緑と青い空はそこに無く、赤い空と荒涼とした大地へと変貌した。この災厄により文明は半壊した。



 世界に開いた幾つかの大穴。その中でも最も巨大な隕石が作ったクレーターは直径二〇〇〇km。壊滅した地域を調査中、調査団がある物質を検出する。
 月と大地の衝突時に放出された未知の素粒子。月の満ち欠けと関係を持ち、十五日間周期でエネルギーの発生と消滅を行う。この性質から、十の十五乗の意味を持つ“フェムト”と名付けられたこの素粒子が、それぞれの世界を変異変容させうる因子をもった物質を形成したのだ。研究の結果、それは素晴らしい力を世界に与える一方で、世界に脅威をもたらすこととなった。壊滅した地域は素粒子の影響により変質した物質、生物により、新しい資源の宝庫へと変化。新しい資源を生み出す地、<オーヴァル>(新たな卵)と名付けられた。
 そしてオカルトの類であった“宇宙線による生物の進化”を実証することになったのである。それも、人類を実証の対象として。
 形成された物質が人間に及ぼした影響は、肉体的な強化と精神が外部世界へ影響する力、因子作用力。簡単に言えば“超能力”を獲得させるに至った。物語や伝説の中で見る念動力のような派手さは無いものの、精神と精神、精神と物質の共振作用とでも呼ぶそれは平凡な人間たちには認めがたいものだった。
 人は自分とは違う者を認めない。自分たちに無い能力を持つ者へ嫉妬する。進化した人類ではなく人では無い者、人類とは違う人類、彼らは“アウター”と呼ばれた。



 人類はフェムト粒子による新しい物質とエネルギーを獲得した一方、アウターの増加を止めるべく<オーヴァル>を隔離することを決定した。これは“仕方の無いこと”として社会に受け入れられた。
 問題は“アウター症候群”。全ての人類がアウターになるわけではなく、変異する段階で死に至るケースが発生したのだ。
 アウター同士の子供であっても“通常の人類”として生まれる者もいれば、成長の過程で発症する者もいる。もちろん発症せず一生を終える者もいる。法則性は見受けられず、発症した者は一〇〇%の確率で死亡する。このままでいけば遠い日のいつか、いずれはアウターだけが人類として生き残ることになる。
 そのため目覚めの日以降再編された三つの政府、共同体と呼ばれるそれら“ホライゾン”、“スカイユニオン”、“ゼン”の協力体制の元に、<オーヴァル>を囲む壁を建設、重力装置を利用したフェムト粒子の制御を開始した。それでもなお、アウターの発生は増加の一途をたどっている。
 そして<オーヴァル>を管理する組織として“オービタル”が発足された。共同体の意向に依らず独自裁量権を持つ組織であり、<オーヴァル>は自治区としての性格を強めていった。今ではオービタルは資源を巡る争いの“調停係”だ。壁の外へはオービタルの承認が無ければ石ころ一つとして持ち出せない。



 アウターが人類の一般社会でつける職はほとんどが最底辺の仕事だ。少しでも良い生活がしたければ共同体での仕事を探すか、犯罪者になるしかない。
 多くの者は最底辺の仕事であろうと真っ当に生きる道を選ぶ。だが自分の命を賭けの元金にして一攫千金を狙う者たちもいる。そんな者たちはオービタルで仕事を見つける――傭兵だ。



 人類は壁の建築、オーヴァル内での生産や復興作業にAI(人工知能)で活動を行うロボットたちを投入した。最初は復興と新しい資源は経済を活発化させ、さらには次々に新しい科学の扉を開いていった。
 それから二十数年が経過し、それは起こった。
ロボットたちが人類を急襲、排除を始めたのだ。人類の制御下から離れたAIたちは『Arms of Immortal』と呼ばれた。通称“イモータル”の行動パターンは人類の排除。なぜイモータルが人類に敵対するのかは、解明に至ってはいない。人類は新たな脅威と対面することとなった。



 共同体は資源を取り戻すべく、ロボットたちの掃討作戦を開始。しかし自己増殖、自己進化を繰り返すロボットたちは、通常兵器では対応できない極小サイズから巨大なサイズまで、個々が判断をし無数の亜種が生まれていく。そのうえ重火器の類ではなく利便性のために開発された道具、薬品、全てを武器として時には防御のために使用する、“兵器”という既存概念での対応は不可能となった。大量破壊兵器でオーヴァル内を破壊すればいいという声もあったが、既に社会を支えていた新エネルギーを放棄できるほど人類は賢くは無く、オーヴァル内の人類の版図は縮小を余儀なくされた。
 イモータルたちの強力な力に対抗するべく、オービタル、三つの共同体は新たな兵器を開発。フェムト粒子を動力源とし、アウターたちの持つ能力に応じた力を発現することを可能とした。装備するOG(外部装甲)<アーセナル>である。
 通常の人間でも装備出来る設計こそされたものの、人間とアウターでは基礎能力が違いすぎるため自然とアウターが装備する兵器へと特化をしていくこととなる。
 神経を繋ぐことで直接操作する<アーセナル>は地上、空中を問わない広範囲での行動を可能とし、様々な装備を可能とした。さらにはアウターたちが自らの肉体を武器に戦うことでイモータルたちと対峙可能となさしめた。以後、十数年に渡りオーヴァル内ではイモータルたちと一進一退の攻防を繰り返し、オービタルはアウターで構成される傭兵集団“解放旅団”を結成するに至る。
 戦闘は依然として継続中である。


     

 *  *  *


 ――壁の向こうでの生活に耐えれなくて、俺はこの道を選んだ。アウターにとってはよくある話だ。平凡以下の生活の中、楽しみと言えばネット配信で見る解放旅団たちの活躍。自分も彼らのようになりたいと思った。たとえ命を賭けるにしても人に蔑まれ、そこにいないかのように扱われて生きるより何倍もいい。
 もっとも彼らの生き死には娯楽として、正に賭けの対象として市民権を得ている。同じ境遇にある身としては面白いとはとても思えなかったが、自分に賭けて戦っている傭兵もいると聞く。アウターが自由に生きることはそれ程に難しい。



 曖昧だった記憶がはっきりとしてくる。俺が今ここにいるのはまさに解放旅団、傭兵となるために検査を受け、幾つかのテストをパスした。そして神経接続端子の移植手術、<アーセナル>と接続するための処置を受けるため全身麻酔を受けて――。
「迷うことは無かったな」
 端末に表示された「承認」をタップする。フォンという軽い音が鳴り、承認データが転送されたことが分かる。
「更新が完了しました。少し休まれますか?」
「いや、いい。さっさと終わらせよう」
「わかりました。部屋のロックを解除します。隣の部屋でスーツに着替えてください」



[ハンガー:オービタルベース内]
 隣の部屋へと歩を進める。
部屋の中央には<アーセナル>と結合するためのスーツとインナーが吊り下げられている。全て同じ黄色。テスト用の物なのだろう。検査前のレクチャーで受けた通りに、インナーを着る。“着ない”という選択肢もあるのだろうが、誰が着たかも分からない物に自分の“モノ”を触れさせるのは御免だ。足、腕と通し、体つきに応じて調整、機密を守るためのセンサーに触れていく。
「これで合っているはずだが……」
「大丈夫です。初めてにしては上出来です」
「そりゃ、どうも」
「それでは、通路の誘導表示に従ってハンガー(格納庫)へ移動してください」
 素直に表示されている通りに進む。どっちみち一本道で寄り道のしようがない。
通路の壁には卑猥なポスターや、賞金首、広報資料などが貼られている。この時代に、と思うが嫌いじゃない。オービタルの中はどこもかしこも綺麗に整いすぎだ。これくらいの方が人間味があっていい。
 通路が終わり二重の扉が開く。独特な臭いが漂ってくる。化学薬品や金属、塗料といった工場で嗅ぐような臭いだ。部屋には、五mの巨人<アーセナル>が待っていた。今は装備姿勢をとっているため本来の大きさではないが、思っていたよりも大きく、兵器としては美しい外観だ。ただし、傷が無ければだが。この機体はテスト用のためか、幾分外装に傷が多いようだ。頭が後ろに倒れ、胸部カバーが大きく開いている。操作をする者、つまりアウターである俺が収まることでこいつは動き始める。
 部屋の隅で働いていた、オレンジのジャンプスーツに身を包んだ一団から若い男がこちらに近寄って来る。
「よっ、お前新人か? 俺はザック。よろしくな」
 差し出してきた手を反射的に握ってしまったが、後悔する。なんだか分からない液体や汚れで汚れていて、不快な感触が手に残る。
「よせ。そいつはまだ新人でもなんでもねぇ。今から適性検査を受けるバカたれだ」
「あらま。こいつがねぇ」
 今更気づいたのか、汚れた両手を服で拭きながら、覗き込むように顔を近づけてくる。ザックと呼ばれた青年は誰にでもこの調子なのだろう。初対面の人間に対しての態度としてはいささかムカつくが、アウターの扱いに慣れた俺にとってはやりすごせない程じゃない。
「わしはアーロン。ここの整備主任をやっとる」
 初老の域をむかえ、顔に深く刻まれた年輪がベテランというだけでなく、幾つもの修羅場を越えてきたことを雄弁に物語っている。
「俺は――」
 ここで気づいた。オーヴァルに入った者、傭兵となる者はコールサインで呼ばれることになる。俺にはまだそれが無い。
「無理に自己紹介なんぞせんでいい。不適性となれば“負け犬の門”を通ってここを去るだけだ。死ねば荒野に打ち捨てられる。いっぱしの傭兵になったら教えてくれ」
 オーヴァルに入った際に通った“門”を思い出す。『汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ』刻まれた文字を読んだ時は大げさだと思ったが、幾分かの真実はふくんでいるらしい。
「そうするよ」
「フォー、整備は終わっとる。いつでもいいぞ」
「アーロン主任。ありがとうございます。こちらがオービタルからあなたへ貸与される<アーセナル>です。装備の仕方は分かりますね?」
 これまでは埋め込まれたコミュニケーターチップから耳小骨を通し聞こえていたフォーの声が、ハンガーに据えられた端末から発せられる。確かに人が集まった時はこの方がいい。頭の中で聞こえる声とみんながしゃべっている姿は不気味だ。
「もちろんだ」
 装備を開始する。胸部に開いたアウター収納スペースへ滑り込む。スーツとOS(操作をするための神経脊髄網)が接続されていく。
「アーセナル起動シーケンス開始……データリンクテスト……正常。ジェネレータープール……正常。エネルギーリミッター解除。電磁装甲稼働率……正常値で稼働中。武器安全装置確認。すべて正常に稼働中。起動します」
 <アーセナル>からのフィードバックが始まる。ピリピリと痛む感じがする。低周波治療で感じるアレだ。が、じきに治まる。体の中の何か、正確にはフェムト粒子を媒介としたエネルギーが相互に行き渡り、機械には無いはずの鼓動や血管を流れる血を感じる。これは脳を騙すためのヴァーチャルな感覚だ。生体である以上存在する拒絶反応は、抗体作用としてだけではなく、体と一定以上の“異物”を繋いだ際には脳の拒絶反応として起きる。
 人体を機械に置き換える技術の発展とともに直面した事実であり、その回避方法が<アーセナル>にも応用されている。視界が広がり機械の巨人を自分の体だと認識する。スーツの模様と思っていた部分が赤く光り始め、“血が通った”ことを認識する。
「“ドラムドライブ”を作動します。ドライブ位置に移動してください」
「おっと」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
 よろけるがバランスを立て直す。初期に設定された画角と肉眼とのずれが脳に三次元酔いを起こさせる。頭を上下左右に振ってみる。すぐに補正機能が働き違和感が消える。今度はよろけることなく、ドラムドライブ上に移動する。
「今回の適性テスト、オーダー(作戦任務)はこのサウスエリア内での任務となります。移 動の後、射出します。よろしいですね?」
「分かった」
「それでは開始します」
 オーヴァルを囲む壁沿いに設置されたドラム型の移動機構、ドラムドライブに乗って移動を開始する。その瞬間軽い圧力を感じるがすぐに慣れる。<アーセナル>の中は装甲と自分の周囲のゲル状物質によって衝撃を吸収し、一定のGに保たれるよう設計されている。破損すれば自分の体のように痛みを感じる。
 移動している間に頭の中で<アーセナル>の能力を復習する。
「――作戦区域に到達。
射出シーケンスに入ります。五秒前、四、三、二――射出します」

 いよいよだ。ドラムドライブの移動が止まり、宙へと射出される。赤い空。かつては青い空だったのが嘘のようだ。考えに合わせて背中のブースターが自動で出力を調整している。HDI(立体空間インターフェイス)に表示された地点へ着地する。目覚めの日以来、放棄された区域なのだろう、廃墟となったビル群から木々が繁っている。生命の逞しさがここにはある。壁の外とは大違いだ。



[廃墟:オーヴァル]
「これより<アーセナル>を使用しての適性テストを開始します。本テストにはあなたが戦力となるかどうかを見極めるため、ベテランの傭兵二名が立会人として随伴します」
 気づけば後ろに二人、いや二機の<アーセナル>が立っている。
「“ウエストセブン”のリーパーだ。適性テストの立会人として同行させてもらう」
「あたしは“装甲の王冠”のローズ。よろしくね」
 背筋が凍る。これが敵なら俺は既に死んでいたことになる。ウエストセブン、聞いた事がある名だ。解放旅団の中でも有名な一団の一つ。悪名高き、殺し屋部隊。リーパーと言えばその隊長。さらに装甲の王冠、壁の外でも人気の高い女性三人組。コールサイン、ローズ・クィーン。キルスコアが最も高い傭兵の一人。
「適性確認テストの立会人は実績のある傭兵から無作為で選ばれます。テストに際して不正がなかったかを監視し、またあなたの生命に危険が及んだ場合は彼らが対処します」
「フォーの言う通りよ。もし危なくなったら助けを乞いなさい。ま、この程度で死にかけるようじゃテストするまでも無いけどね」
「難しいことは何もない。ただアウターの感覚にしたがえばいい。迷った時は自分の命を優先しろ」
「あなた方アウターの命はこのオーヴァル、ひいては世界のための貴重な消耗品です。最も、あなたが達成するであろう利益より、不利益をもたらす確率の方が高いと見なされれば、その限りではありませんが――」
 だろうな。壁の外での俺たちの扱いを考えれば、ここでの命の値段がまともとは思えない。殺し屋のボスの方が優しいなんて、笑える話だ。
「了解だ」
「それでは適性確認テストを開始します。この区域の敵を殲滅してください」
 HDIに敵の位置と情報が羅列される。動きは無い。全ての武器の安全装置が解除される。武器はライフルと盾。
 表示されているのはドローン型のイモータルだ。地上を滑り、一気に近づく。こちらに気づいたのだろう、廃墟の中、高架裏から一斉に飛び出してくる。攻撃を躱し、一機づつ落としていく。組織だった攻撃をしてくるうえに、仲間を盾替わりにこちらを攻め立ててくる。これじゃあ、きりが無い。
「なかなかやるじゃないか。でも、そんなんじゃあ時間がかかってしょうがないよ。狙いを絞りな」
 狙いを絞る? 何に?
「こいつらの生態は虫だ。わかるな?」
「虫? 虫って虫だよ――ですよね?」
 口の利き方には気をつけた方がいい。殺されることは無いかも知れないが、用心に越したことは無い。なんせ、評判が最悪だ。嘘か真か犯罪者だけの傭兵集団。
「その通りです。このタイプはアリやハチ、昆虫と同じでリーダーが存在します」
「つまり、そいつを殺れば群れは崩壊する」
「上出来だ」
 ハチやアリと同じなら、ボスは最も奥にいるはずだ。
「よし」
 盾を構え、敵の中央に一気に突っ込む。多少の被弾は無視する。「っつ!」幾つかがボディにダメージを与え、フィードバックされたダメージを感じる。痛みを感じた部分からはゲル状物資が流れだし、まるで血のようだ。「この虫共が!」ドローンたちへ横殴りに集中砲火を浴びせる。不自然に奥の一機を庇って死ぬ奴らがいる。ということは――
 高く上空へ飛び、ダイブしながらすれ違い様にリーダーと覚しき敵へ攻撃を仕掛ける。機動性ならこちらが上だ。四散する敵から周囲に目を移す。HDI上の敵は動きを止めている。“目”で見る敵も動きを止め、混乱しているようだ。
「急いでください。あと五〇秒ほどで敵は新しいリーダーを決めるはずです」
「って、そういうことは早く言えっての!」
 動きが止まっていれば難しくは無い。HDI上の表示を一つ残らず消していく。 瞬く間に光点は少なくなり、最後の光点が消える。
「お疲れさん。俺たちは休憩したら次の任務だ」
「上出来ね。また会えるといいわね、新米さん」
「適性確認テストを終了します。それではオービタルのベースへ帰還します。ここからは私が自動操縦しますので、お休み頂いて構いません」
 応じる間もなく、空の彼方へと二人が飛び去っていく。
思った以上に疲労が酷い。死ぬとは思わなかったが、体全部が軋むようだ。お言葉に甘えるとしよう。
「そりゃ助かる。で、俺は合格なのか?」
「現在、オービタルが検討中です。今はゆっくりお休みください」
 OSからの接続を外し、四肢を自由にする。帰還シーケンスを選択する。
「了解。少し休ませてもらう」
「お任せください」
 フォーに全てを任せる。あとは帰還するだけだ。さあて、うまくやったとは思うが。

  
――――つづく

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