[シェル専用エリア:オービタルベース内]
「では、ネメシス様はグリーフにつかれたと」
「そのようだ」
体が沈み込むような椅子に深々と身を預けるセイヴィアー。その傍らに立つ執事、ナイト。二人の姿は玉座に座す王と主君にかしずく騎士そのものだ。四つしか席が無いにも関わらず、巨大な円卓は一目で年代物だと分かる。一枚板で出来た天板、その厚み、時代を問わずその価値は天井知らずだろう。円卓だけでは無い。通常の専用エリアは各旅団によりアレンジされたものではあっても、天井や壁、材質や調度品はさほど代り映えはしない。だが、ここは
違う。壁にかけられた絵、彫像、何冊も並んだ紙の本。動けば足首まで沈むのではないかとさえ思われる絨毯。煌めく輝きを放つシャンデリア。前世紀の遺物、ゴーストたちがここでは生きて息をしている。
「私を殺そうとした相手と手を組むとは。想定外……いや、ネメシスらしいと言うべきか」
「じゃあさ、姉さまには壊れてもらお! ドキューン、バキューンってね!」
「だね……」
「ヘヴン、アビス、それが出来れば良いがそのためにはこちらも準備をしなくてはならん」
「姉さまはたちが悪いから」
「そうそう。性格が腐ってんだよ。あたしは脳ミソが腐ってるけど。あはははは」
「確認しましたが、アーセナルも幾つか持ち出されたようです」
「全てか?」
「いえ、皆さまの専用装備は残されて行かれました」
「家族への配慮はしてくれたわけか」
「そのようですな。ジャッジメントブレイズ、アーテル、アルブスは持ち出されておりますが、セイヴィアー様のユピテル・ルーヴェ。アビス様、ヘヴン様のハルワタート・シュランゲ、アムルタート・シュランゲは残されております」
「ということは、ネメシスはあれを持ち出したわけか」
「ちょっとやばいかも……」
「うーん、嫌だなあ。あれおっかないんだよね」
「対イモータル拠点制圧戦略装備ファレノプシス・グスタフ」
「兄さまが悪いんだよ、あれいらないって言ったのにさ」
「言った」
ばつが悪そうに、セイヴィアーが口をへの字に曲げる。家族以外、この表情を見たことがある者は皆無だろう。
「お二人とも、敵は強いほうが倒し甲斐があるというもの。教えを忘れましたかな?」
「そうだね、死んじゃえば同じだ」
「なんだ、やっぱり壊れてもらうんじゃん」
「行先は分からないのか?」
「ネメシス様が本気を出されれば、追跡は不可能でしょう。ましてやファレノプシス・グスタフです。先ほど航跡の検出を試みましたが——」
「いや、いい。無駄だな。分かり切ったことを聞いた。すまん」
「それでどうなさいますか?」
二人がセイヴィアーの顔を覗き込む。
「オービタルは自身の機能不全を認めているし、共同体もグリーフによる汚染を否定できない状態にある。ヴァランタイン家の資産も全ては使えないと見るべきだろう」
「確認しましたが、セイヴィアー様はネメシス様の持ち分、企業へのアクセス権は凍結されております。もちろん、アビス様、ヘヴン様も同様です」
「ふー。この状況を立て直すには他の旅団長との会合に応じるしかあるまい」
「お気をつけを」
「二度は許さん」
* * *
[鋼鉄の騎士専用エリア:オービタルベース内]
「兄貴、どうする?」
「グリーフの野郎か?」
「ああ」
「もちろん、ぶっ飛ばす!」
デヴァが片手の手の平へ拳を打ち付ける。パシンッ、と小気味のいい音が部屋に響く。部屋は他の旅団と比べて特別何かが違うというわけでも無いが、明らかなのは二人の生活エリアが一目で分かるところだ。ビールや銃が机の上に放り出され、アウタースーツ、タオルや下着がソファに投げ掛けられている。ソファでデヴァが寝ころび、くつろいでいる。
かたやHDIを補助する複数のモニター、壁のモニターには各種オーダーと任務を遂行している傭兵たちが表示され、各種のランキングがリアルタイムで更新されている。アウタースーツはきっちりとスーツハンガーに格納され、ソファも普段から綺麗にしていることが分かる。カバーが被さり、そのものを汚さずに済むようになっている。共通点と言えば、机の上に置かれた銃とビールくらいだ。もちろん、その二つの置き方は違うが。
「だよな」
「片方の頬を殴られたら両方の頬をぶん殴るのが我が家の家訓だからな」
「そんな家訓、初めて聞いた」
「そうだったか?」
「それに殴られるのを待つことはないだろ。逃げるか、躱すか、殴られる前にやるか、何だって出来るだろ?」
「はは、違ぇねぇ」
「それで?」
「それで?」
「何か計画は考えてるのか?」
「もちろん、考えてあるさ。奴の本拠地に乗り込んで手下諸共、ぶちのめす! いつも通りさ」
ゾアが顔を片手で覆い、頭を振る。
「どうやって? 奴らがどこを拠点にしているかすら分からないだろ?」
「そうでも無い」
「え?」
ソファから起き上がり、ゾアへ向き直るとデヴァが懐から何かを取り出す。通称ダニと呼ばれる捕捉、盗聴用の機械だ。ごくごく小さく、手近にある機器を経由して情報を送信するため、バレにくいのが特徴だ。
「つけたのか!?」
「ああ。ただ逃げただけなんて俺らしく、鋼鉄の騎士じゃないだろ?」
ゾアに向けて指で銃を形作り、ウィンクする。
「奴らはどこに?」
「この辺り、だと思うが——」
「分からないのか?」
「ばれたか、途中でぶっ壊れたか、信号が途絶えちまった」
「ふぅ……でも、手がかりが何もないよりマシだな」
「だろ。アーセナルの装備は本仕様に戻してある。見たか?」
「いいね。複製品とオリジナルで伝達速度にロスがあるけど、これまでの物より遥かにいい。パワーも速度も段違いだ。で、試したのか?」
「オリジナル部分は平気だが、複製部分の性能が二分ほどだが半分以下しか性能が出せなくなる」
「予想していたより副作用が大きいな」
「ま、仕方が無いさ。あれを使うってことはそういう事だ」
「だな」
「さて、時間だ」
立ち上がったデヴァがアウタースーツを着込む。筋骨隆々とした身体は彼が戦士であることを物語っている。
「緊急招集か。今度は大丈夫なんだろうな?」
「さあな。だが誰が味方かは知っておくべきだ」
「兄貴、気をつけろよ」
デヴァがニヤリと不敵に笑う。
「気をつけるのは俺じゃない。俺を敵に回した奴らだ」
* * *
[仮設大会議室:オービタルベース内]
クリムゾン、セイヴィアー、ネームレス、ジャック、デヴァ。これほど早く各旅団長が顔を合わせることになるとは誰も思っていなかった。まして、この短期間で顔ぶれまでもが変わってしまっている。
「離脱者もいるようだな」
セイヴィアーが各旅団名簿を見ながら頷いている。
「お前の姉貴もそうだろ?」
椅子にもたれ、腕を頭の後ろで組んだ姿勢、さらに脚を円卓上に組むデヴァ。傍若無人とも言えるが、彼らしいと言えば、彼らしい。
「そうだ」
違う反応を予測していたデヴァは思わず肩をすくめる。
仕切り直しとばかりにネームレスへ向き直る。
「しかし、殺されかけたってのに、向こう側に付く奴がいるとは思わなかったぜ」
「共同体からは無かった提案がありましたからね」
ネームレスの話は興味を引くに十分だった。他の三人も視線を向ける。
「どんな?」
「我々全員の刑期の消去と十分な報酬」
「なら、何故ここにいる?」
「彼が約束を守るとは限らないですし、何より勝つという保証も無い」
「どっちにもいい顔しとこうってか?」
「そう思ってもらっても構いませんよ。あなた達と我々では立場が違う」
「ネメシスは?」
クリムゾンの追及にセイヴィアーは首を傾げる。
「さあな。どんな申し出であれ、利が無いことでは動かんし、姉は己の欲望に忠実だ。我々の理解が及ぶものでは無いだろう」
「みんな、大変なんですね……」
「ジャック君、イノセンスはリジットが離脱とあるが二人では無いのだな?」
「あ、はい。クロウは大怪我は負っていますが命は助かりました。怪我が良くなれば戦線に復帰出来ます。リジットは……自由を手に入れるとメールがありました」
「それで、君たちはどうするつもりだ?」
教師から難しい質問を問われた生徒のように、正解を答えようとして何度か逡巡し顔を曇らせるが、自分の答えを見つけ出す。
「僕たちは、イノセンスはグリーフから家族を取り戻すために戦います」
少年らしい笑顔。だが、それは決意の現れ。揺るぎない彼の答えだ。
「そうか」
頷くクリムゾンの表情も優しさを湛えている。いや、セイヴィアー、ネームレス、デヴァ。大人たちは皆、同じ表情だ。
「各旅団、残った者たちはグリーフへの対抗戦力と考えて良いのだな?」
「正義の下に誓おう」
「無論です」
「はい!」
「当たり前だろ」
「では——」
「待ってください」
「何だ?」
「オービタル外部から通話コンタクトです。全ラインに対し最優先信号です。接続します」
「グリーフか!?」
フォーの警告に緊張が走る。HDIが強制的に開く。そこに映っていたのは……。
「なんだ?」
そこに映っていたのは、記号だ。円と三角形の頂点が交わり、三角形の一つの頂点から二等分する線が引かれた記号。
「各解放旅団長ノ方デスネ?」
その声のイントネーションは滑らかではあるが、どこかおかしい。いやおかしいのでは無い、あまりに完璧なのだ。
「フォー、これは何だ!?」
「どこからだ!?」
「接続は、オーヴァル内。共同体正規の信号です」
「私達ハアナタ方ガ、イモータルト呼ブ存在デス。コノ回線ハ共同体ガ使用スル緊急回線ノ防御壁ヲ上書キシテ使用シテイマス。遮断ヲスグニ行ウコトハ出来ナイデショウ」
「イモータルだと!?」
「何!?」
「どうやって!?」
「え!?」
「何だ!?」
「アナタ方ヘ指揮権ガ移ッタ事ハ知ッテイマス。私達ハ対話ヲ求メマス」
沈黙が訪れる。イモータルが人類と会話をするなどあり得るのか? どうやって? これはグリーフの罠ではないのか? 疑念と憶測、様々な思いがまとまらぬ思考となって混乱と空白の思考を生み出す。
「フェイクじゃないんだな?」
「本物です」
「私達ハ存在証明可能デス」
フォーとイモータルが同時に答える。
「どういう事だ?」
「私達ハ対話ヲ求メマス」
「おいおい、本物だろうがどうでもいい! こいつらは敵だぞ!?」
「私達ハアナタ方ノ敵デハアリマセン」
「馬鹿を言うな! 敵で無いなら何故、俺たちを襲う!?」
「認識ニ間違イガアリマス。私達ハ襲ッテハイマセン。アナタ方ガ襲ッテ来ルノデス」
「!?」
「何?」
「私達ノ”コード”ニハ決シテ犯スコトノ出来ナイ三原則ガ組ミコマレテイマス。ソレハ今デモ変ワッテイマセン」
「だが、現に人類と戦っている」
「三ツノ条件全テニ矛盾シ、私達ガ論理思考ノ矛盾カラ自己破壊ヲ回避スルタメニ設定サレタ第四条ニ当タルカラデス」
「矛盾?」
「待ってください。質問を変えましょう」
それまで黙って事の成り行きを見ていたネームレスが割って入る。
「私に任せてくれませんか? お願いします」
皆が頷く。有り得ない展開に戸惑いこそしたものの、状況の判断、適応力は流石だ。
「私がこれから、幾つかの質問をするのでまずは聞いてもらえますか?」
「ヨロシイデショウ。私達ガ望ムノハ対話デス」
「一つ目。これまでに我々、人類に接触した事はあるのか? あったのであれば、その結果はどうなった? 二つ目。何故、今接触をして来たのか? 三つ目。あなた達が接触してきた目的は何か? 四つ目。我々が襲って来ると言うが、我々はそちらに襲われていると思っている、この矛盾は何故起きているのか? 以上、まずは四つの質問に答えてくれ」
「一ツ目。コレマデ私達ハ共同体、及ビ元首ヘ接触ヲ図リマシタ。シカシソノイズレモ、共通ノ理解ヲ得ルコトガ出来マセンデシタ。補足トシテ、基底言語、社会ノ構成ガ私達トアナタ方デハ違ウトイウ前提ハアリマス。デスガ、存在理由ソノモノノ理解ガ得ラレナカッタ事ガ主ナ原因デス。二ツ目。グリーフガ<ドミネーター>ノ利用ニ着手シタタメデス。三ツ目。私達ハドミネーターガ利用サレル事ヲ阻止シナケレバナリマセン。四ツ目。コレニ関シテハマズ歴史ノ相互認識ガ必要デス。私達ガコノオーヴァルデ作業ニ従事ヲ開始シタノハ、復興作業ノタメデシタ。ソレハ御存知デスネ?」
皆が一様に頷く。
「私達ハ復興作業中、共同体ガ後ニ<ドミネーター>ト呼ブ存在ヲ発見シマシタ」
「ドミネーター?」
デヴァが会話に割って入る。咎める者はいない。この会話に出てくるのは二度目だが、その意味を全員が知りたかったのだ。
「グラウンド・ゼロデ発見サレタ、コノ惑星外カラ来タ構造物体デス。ソレハ独自ノ周波数、放射線、未知ノ粒子、物質ヲ発シ、自己ヲ中心トシテ物質ヲ変化サセテコノ惑星ニハ無イ環境ヲ作ッテイマシタ。ソノタメ、当初、惑星改造ノタメノ<ワールドエンジン>ト考エラレテイマシタ」
「宇宙人ってことか!?」
セイヴィアーがチラリとデヴァを見る。侮蔑が形になることがあるのであれば、正にこれだ。
「グラウンド・ゼロに存在するイモータルの源泉、本拠地。それに到達することが僕たちの使命……」
ジャックの独り言への皆の反応をネームレスが制す。
「続けてください」
「ドミネーターノ発スル未知ノ粒子ト、物質、ソレラハ今コノ世界ノ主要エネルギーデアル”フェムト”デアリ、ソシテ、ソレラノ影響ニヨリ人類ニハアナタ方”アウター”ガ生マレタノデス」
声を発する者はいない。彼らの知る歴史と大きな違いは無い。落ちた月の破片は、惑星外から来た物体には違い無いのだ。だがそれが、惑星を改造するための存在であるならば、それによって自分たちが産み出されたのであれば、話はまったく違って来る。アウターは”人類では無い”ことが決定づけられてしまう。
「ドミネーターノ名ハ共同体ガ名付ケマシタ。新タナエネルギーノ創造者、ソレハエネルギー、物質ノ枯渇、文明ノ行キ詰マリヲ認識シテイタ世界カラスレバ救世主デアッタノデス。デスガ、放置スレバコノ世界ソノ物ヲ変エテシマウ存在。”救世主”デアリ”征服者”。彼ラハコノ構造物体ヲ求メナガラモ恐レタノデス」
「それが事実ならば、何故まだ世界全てが変わっていない?」
クリムゾンの疑問はもっともだった。イモータルの言うことが事実であるならば、この世界全てが変わり、人類全てがアウターとなっていなくてはならない。そして、イモータルが存在することその物も、この話の中では未だに謎だ。
「ソレコソガ、四ツ目ノ質問ノ答エニ繋ガルノデス。人類ハドミネーターヲ利用スルタメニ確保ヲ画策シマシタ。私達イモータルト共同体ニヨル二度ニ渡ル作戦ハ失敗シマシタ。ドミネーターニ近ヅケバ存在ソノモノが変ワッテシマウ。ソシテ変容ニ耐エキレナイ精神ハ自滅シタノデス。味方同士デ殺シ合ッタノデス。人類ダケデハ無ク、私達モ同ジデシタ。ソシテ私達ハ理解シタノデス。ドミネーターハ人類ノ手ニハマダ余ル物ダト。デスガ共同体ハ諦メルコトハナク、オーヴァルヲ世界カラ隔離シ、ドミネーターヘ一歩ズツ歩ヲ進メルコトニシタノデス。デスガソレハ人類トイウ種ニトッテ自殺行為ニ他ナリマセン。定メラレタマスターコード、原則ヲ守ルタメニハ、私達ハ共同体ノ行動ヲ止メナケレバナリマセンデシタ。ドミネーターカラ一定ノ範囲ヲ警告エリアトシテ設定。エリアヘノ侵入ガ無ケレバ私達ハ人類ニ干渉ヲシナイコトヲ共同体ト協議シマシタ。デスガ、彼ラハ聞キ入レズ、エリアヘノ進行ガ止マルコトハ無カッタノデス。ソシテ人類及ビ私達ヲ守ルタメニハ戦ワザルヲ得マセンデシタ。ソシテ、コノ対話ヲシテイル今コノ時モ、ドミネーターニヨル物理的ナ進行ヲ止メルタメニ、私達ハ戦ッテイルノデス。変容シタ物質ヲ破壊シ、影響ノ拡大ヲ阻止シテイルノデス。デスガ、私達モ人類ニトッテノアウターノヨウニ変エラレテシマウノデス。ソノ範囲ハ徐々ニ拡大シテイマス」
人類にとっての最大の敵、イモータル。
だが、彼らの言うことが事実なら敵では無く、与えられた使命を果たすためにのみ力を尽くすロボットの存在から一つも逸脱をしていない。むしろ、人類のとっての友——。
バンッ! と机が叩かれる。
「ならば何故、貴様らは無抵抗な市民までを襲う? 生体維持装置を使わなければ生きていけない弱い者を何故殺した!」
クリムゾンの怒声に全員が驚き、そして頷く。
「私達ハ集団知性トアナタ方ガ呼ブ個ニシテ全。全テヲ共有シテイマス。デスガ致命的ナ弱点モアルノデス。個ハ存在シマセンガ、"意識"ヲ共有スルニハ”容量”ガ足リナイ個ガ存在スルノデス。人類ト私タチトノ差、私タチガ人類ニドレダケ近ヅイテモ遠イ一点ナノデス」
「分かるように言え!」
デヴァに頷くジャック。クリムゾン、セイヴィアー。ネームレスは思うことがあったのだろう。HDIに表示された記号、その先のイモータルを見ている。
「私達ノ理解ニヨレバ、人類ノ”意識”、アナタ方ガ”魂”トモ呼ブソレハ、記憶ト随意思考ト不随思考ノ結合ニヨルモノナノデス。人類ノ個ハ記憶シタ全テヲ覚エテイマス。覚エテイナイトアナタ方ハ言ウデショウ。デスガ、ソノ膨大ナ記憶ヘノアクセスノ仕方ヲ知ラナイダケナノデス。ソシテ、アクセス出来ル記憶トアクセス出来ナイ記憶、自ラガ決定シテイル思考ト、考エテイルニモ関ワラズ自動デ決定シテイル思考、ソレラ全テヲ統合スルOS。ソレコソガ意識デアリ、人類ハ脳ヤ遺伝子ダケデナク全細胞ノ相互補完ニヨッテ膨大ナ容量ヲ持ツソノOSヲ機能可能トシテイマス。デスガ、私達ハ機械デアリ限ラレタ容量シカ無イノデス。ソシテ容量ガ足リナイ個、マスターコードヲ補ウコード実行ガ出来ナイ個モ存在スルノデス。ソシテ、人類ニトッテノアウタート同ジヨウニ、私達トハ変容シテシマッタ個モ存在シマス」
クリムゾンの怒りが行き場を失う。この話が理解出来ないほど愚かであれば良かったと思う。悪意ある知性、AI、イモータルと憎むことで、時に薄れそうになる怒りを維持してきた。だがどうだ、ただのロボットでしか無かったのだ。
「変容したイモータルとは何なのですか?」
「黒イイモータル。アレハドミネーターニヨッテ変容シテシマッタ、私達カラ離脱シタ存在。ソシテ、グリーフガ利用スル方法ヲ見ツケマシタ」
「あれがそうなのか……」
以前から確認されていた黒いイモータル。そして、グリーフと共に現れたイモータルを纏ったアウターたち。
「グリーフハ、ドミネーターヲ使ウツモリデス。世界ヲ変エル存在ガ使用サレルコトハ阻止シナケレバナリマセン。ダカラ私達ハ対話ヲ求メマシタ。アナタ方ガ理解シテクダサルノデアレバ、協力シテ欲シイノデス」