Star Reclaimer

デモンエクスマキナ 星の解放者

第4章−8

[ゼン支配領域ミサイル発射施設:オーヴァル]
「きりがねぇ! まったくこんな面倒なもん作りやがって!」
「呆れて開いた口が塞がらないな。あいつらは何て言い訳するつもりなんだ?」
「当該施設は明らかに条約違反ですが、オービタルが認知する以前に施設の所有権を破棄、現時点では法の下での判断は困難です」
「だから、責任は追及されないっていうのか? 無責任にも程があるだろう!」
「ゾア、そんなことはどうでもいい。作られちまったものは仕方ないし、ぶっ壊せばいいってこった」
「そうだけどさ。しかし、あいつらはミサイル基地なんて奪って何をしでかすつもりだ?」
「知ったことじゃねえな。グリーフの反乱がどうだ、ドミネーターがどうだとうるせえが、心の底からどうでもいいぜ。悪さをする奴は全員ブン殴って黙らせるだけだ。もちろん、あいつもな!」
「少しは頭を使っているのか? お前らの会話は知性のある大人とは思えん」
「兄貴と一緒にするのはやめてくれるか?」
「その通りです」
「このブラコン野郎が!」
「お前が他人に言えるのか?」
「うるせー!」
 黒いイモータルの大群へ銃弾を撃ち込み、空いた穴へ盾を押し立て機体を捻じ込む。瞬間、レーザーブレードで敵を引き裂いていく。<クルセイダー>と名づけられたその機体は正しく鋼鉄の騎士そのものだ。
 切り裂かれ、開いた空間を即座に黒いイモータル達が埋め尽くす。
「ええい!」
「兄貴! くっ!?」
 兄の横へ機体を飛ばすゾアへ無数の銃弾が雨のように放たれ、回避する度に兄から離れていく。
「さっきの技は厄介だ。お前たちには離れていてもらう」
「野郎、スカしやがって。ゾア、大丈夫か?」
「これくらいなんでもない! クソッ、クロンダイクの奴、うまい」
「おもてなしに満足してくれているようだな。しばらく、そこで遊んでいてくれ。私にはやることがある」
 黒いイモータルとアーセナル達の後ろにいるクロンダイクが機体を施設へと運ぶ。
「させるかよ!」
「兄貴!」
 出力を上げ囲みから脱出しようとするが、密集したイモータルたちが上下左右、空間を埋める形で進むことも退くことも出来ない。前に斬り進むも、結果は同じ繰り返しだ。デヴァとゾア、二人を倒すことも出来ないが二人が自由に行動することも出来ない。圧倒的な物量による封じ込め。それがクロンダイクが鋼鉄の騎士に対して出した回答、戦術だった。
「ふざけんな!」
「各機のデータリンク開始。小隊の通信回線を開きます」
「援軍?」
「さあ、盛大に行くわよ! スリー、ツー、ワン……撃て!!」
 エンプレス、ジョニーの駆るクラミツハ、アメノハバヤから放たれた巨大な四つの火線が敵を薙ぎ払う。回避行動をとったデヴァの機体を火線がかすめ、装甲を焼く。
「あっぶねぇ! 殺す気か!」
「悪いわね! この子は新品なんで勝手がさっぱり分かんないのよ!」
「右に同じ!」
「おせーんだよ! 味方のイモータルは!?」
「置いてきた!」
「ったく」
 デヴァとゾアに笑顔が戻る。
「それで、バレットワークスの掩護は三機って聞いてたが」
「兄貴、上だ!」
 火線とは違う炎が一直線に上空を横切り、炎の塊が四人の頭上から落ちて来る。
「何だ!?」
 炎の塊が空中で急制動をかける。刹那、飛散した炎の中から機体が現れ、ゾアを足止めしていたアーセナルの部隊へと突っ込んだ。盾で頭ごと敵を磨り潰し、右手で振るう剣はフェムトエネルギーの供給により長大な幅広の剣と化し、一撃で数体を薙ぎ払う。
 識別マークは――
「来たな、ルーキー。待ってたぜ」
「あれが……ルーキー?」
「待たせた!」
 薙ぎ払った剣をそのまま上段から振り下ろす。敵の大群が十文字に切り開かれた。
「ゾア! 今だ!」
「分かってる!」
 二機のクルセイダーの背中のパイロンに1つだけ装備された円形の兵器が起動し、重なった小さな輪が回転する。回転する度にその隙間から円状の小さな物体が射出され、大群の周囲へと散らばり、敵へ吸着していく。
「狙いは?」
「ばっちりだ」
 刹那、射出した物体は吸着し、形を変える。鋭い槍と化し、正確に敵のジェネレーターを貫く。敵は爆散するか、エネルギーの供給を失い、地上へと落下していく。
「うわ、えげつねー……」
「ま、状況が状況だからな。元の機体に戻したってわけだ」
「元の機体?」
「ああ、親父とおふくろが使ってた物だ。訳ありのワンオフ機体だからな。いざっていう時以外は使わずにいたんだ」
「そういうお前らの機体も相当根性入ってると思うがな」
「お褒めにあずかり——」
「バカ兄弟! ジョニー! お喋りは後回しよ! 見て!」
「何!?」
 基地の、ミサイル発射基地の周囲に設置されたサイロ開口部が徐々に開き始めている。
「クロンダイクはまだ中には——」
「まったく頭を使えと言ったはずだぞ?」
「クロンダイク!?」
「外にいるアーセナルに何故、私が乗っている必要がある」
「どういう事だ!?」
「ゲームは常に相手の目的を、選択肢を狭めることで勝ちを得られる。お前たち兄弟の失敗は私の目的が分かっていなかったことだ。何故ミサイル施設、いやこの施設内の核ミサイルが必要なのかを考えればわかるだろう? 目的は施設ではない」
「核ミサイルの使用……」
「半分は正解だ。さあ、どうする?」
「この野郎、死んでも文句言うんじゃねえぞ!」
「うぉおおおお!」
「ルーキー!」
「セイリオス!」
「発射出来なくすればいいんだろ!」
 フェムトで真っ赤に灼熱する機体を駆り、サイロ開口部の一つへと切り込む。
「嘘だろ!?」
 アマツミの異常とも言えるエネルギー塊がぶつけられたサイロ開口部に凹みこそ確認は出来るが、無傷と言っても良い。
「目標施設への被害は軽微、ほぼ無傷です」
「核ミサイルを守る防壁だぞ? アーセナルの攻撃で簡単に破壊出来ると思ったのか?」
「おい、どんだけ硬いんだよ。こりゃ内側からぶっ壊すしかねえか?」
「今、侵入経路を探——うわっ」
 デヴァ、ゾア、エンプレス、ジョニー、セイリオスへ黒いイモータルたちが一斉に攻撃を開始する。
「まったく。指を咥えて見ているとでも思ったのか?」
「どうするんすか!?」
「どうするも何も殴られっぱなしっていうのは、どうもね」
「ミサイルの発射口はどこに向けられてる? ミサイルがどこに堕ちようと、苦しむのは弱いものだ。だったらそんなもの、ぶっ壊すしかねえだろう!」
「たかだか傭兵の癖に大そうな理屈だな」
「犯罪者のお前に言われたくはないね。それに、あいにく、オレと兄貴は傭兵じゃないんでね」
「ほお。では、何だと言うんだ?」
「オレたちは正義の——」
「——味方だぜ!!」
 盾を押し立て、敵の大群内へと二機が加速し突っ込む。
「こいつらは俺たちが引き受ける!」
「兄貴!」
「やれ!」
 クルセイダーの背中の兵器が起動し、周囲の大群が炎に包まれ、地上へと落ちていく。
「エンプレス! ジョニー! お前らはルーキーと核ミサイルを!」
「任せな!」
「中尉、中止コードをハッキング——」
「コードはもう割り出してる。けれど無理! 旧時代のフォーマットだから、ミサイルへ直接入力するか専用端末から入力する以外無い! まったく、良く出来てる! ジョニー、照準情報を送ったわ。ミサイルに当てるんじゃないわよ!」
「もちろん!!」
 二機の電磁加速砲が一つのサイロ開口部、周囲の開閉機構へと砲火を集中する。分厚い壁が弾と熱に膨張を開始する。
「もう少し!」
「エネルギー供給量が限界頭を超えます」
「うるさい!」
「黙っててくれ!」
 サイロの開口が止まる。破壊こそ無理でも歪んだ隔壁を検知し発射シーケンスが中断される。
「次!」
「電磁加速砲の使用には冷却時間が必要です」
「機体の全エネルギーを冷却に回して!」
「機体維持に必要なエネルギーを除く、機体の全エネルギーを冷却に回します」
「聞いての通りよ。護衛は頼むわよ」
「ふん。女性を守るのは騎士の仕事だからな。言われなくとも守ってやるさ!」
「兄貴、前を見ろ!」
「おっと、アブねぇ!」
 デヴァの横を抜けようとするイモータルを破壊する。エンプレスとジョニーの機体は今は空中に浮かぶだけの的だ。
 サイロの開口部二つめが開口を止める。セイリオスの機体、アマツミの姿が変わっている。サイロの開口中の縁を掴んだ二の腕だけでは無い、全身の装甲が開き、内部の人口筋肉部分が露出している。機体をフェムト粒子が包み込み、赤く輝いている。
「ぬうわぁあああああ!」
 本来制限がかかるはずのフィードバック遮断システムが機能していない。装備者の力を機体へ伝えるための装置のはずが、機体が力を引き出すために装備者のエネルギーを吸収している。加速した血流の圧力で血管が浮き上がっている。
「あ……あと……四つ……」
「セイリオス、大丈夫か!?」
「大丈夫かどうか、より……今はやるしか……ないだろ」
「くっそ、踏ん張れ!」
「任せろ……次!」
「フォー!」
「急速冷却終了、武装へのエネルギー解放まで十、九、八——」
「ジョニー、準備は?」
「いつでも!」
「三、二、一」
「次!」
 セイリオス、エンプレス、ジョニーが隔壁へ攻撃を開始する。
「頑張るじゃないか。だが、間に合うかな?」
「兄貴、奴の言う通りだ。三人じゃ間に合わない!」
「くそっ! <ハートキラー>じゃ、核ミサイルそのものを攻撃しちまう……エンプレス、中止コードは分かってるんだよな!?」
「何をする気!?」
「間に合わねぇなら、直接やるしかねぇだろ?」
「……コードは送ったわよ」
「ゾア、やるぞ!」
「了解だ!」
 クルセイダー二機が敵を背に地上へ、ほとんど開いた隔壁の中へ機体を滑らし、隔壁とミサイルの間に機体を固定する。ハッチを開き、すぐに飛び出す。
「制御パネルは……見つけた」
「兄貴、こっちも見つけた」
 コード入力パネル上には、発射までの時間がカウントされている。コードを入力。ENTER。だが……。
「エラーだと!」
「エンプレス! コードが違う!」
「チッ、クロンダイク!」
「仕掛けが何も無いとでも思っていたのか? お前が相手だ。普通なら引っかからないだろうが、この状況だ。焦ると思っていたよ」
「うわっ!!」
「ジョニー! くわぁあ!」
 ジョニーの電磁加速砲一基が爆発する。間一髪、機体からパージしているが爆発がもう一基の電磁加速砲照準をずらし、エンプレスの機体の脚を破壊する。
「ジョニー、攻撃は継続できるね!?」
「立て直します!」
「フォー、機体の制御を任せる」
「機体の制御を開始します」
「……これか、いや。チッ、クロンダイクめ。けれど、この程度は……これか! GOD DOG。笑えないんだよ! 二人共、聞いてた!?」
「ああ、聞こえてる!」
「兄貴、急げ!」
「急かすなよ!」
 二人がほぼ同時にコードを入力する。ENTER……。カウントダウンが止まる。
「ふー。まったく、世話焼かせやがる」
「休む暇は無いぜ。敵はまだ——」
「中尉! ダメです!」
「何だ!?」
 セイリオスがもう一基の発射を阻止していた。しかし、ジョニーの攻撃が途切れたことでエンプレスとジョニーの攻撃していたサイロ隔壁が開き、ミサイルが点火を開始する。
「よく頑張ったが、無駄だったな。見ごたえはあったがね」
「クロンダイク!」
「まだだ!」
「ルーキー?」
「爆発させなければいいんだろ! なら、何か手があるはずだ!」
「おお、これはこれは。さすが期待のルーキーだな。頑張るじゃないか」
「無理かも知れないけど……」
「何だっていい!」
「データを送ったわ。赤い所が核弾頭と中性子を発生させる基部よ。その下の青い部分が制御基盤。そこを切り離せば、或いは——」
「おいおい! こんな雑な絵で役に立つのか!?」
「分からないわよ! データはゼンの物よ」
「そんなもん、あてになるのかよ! ゼンだぞ!」
「みんな!」
 ジョニーの声に、全員の視線が集まる。ミサイルがサイロを離床、加速を開始している。
「間にあえぇえ!」
 全推力にエネルギーを回す。だが、ミサイルの加速に追いつけない。
「ふざけるなよ……化け物なんだろ、アマツミ! お前の力を見せてみろ!」
 浮き上がっていた血管の幾つかから血が吹き出す。輝きを増した機体が加速を開始する。
「うおぉおおおおおおおお!」
「やれるのか!?」
「セイリオス!」
「やった!」
 ミサイルへアマツミが取り付く。少しずつ目的の場所へにじり寄っていく。地上からはミサイルの光しか見えない。
 高度七〇Km。
「えやあーっ!!!」
 ミサイルをブレードで叩き切った瞬間。時間が止まった……。少しの間だったのか、長い時間だったのか。切り離された弾頭はこれまでの推力を受けて上へと上っていく。そして——。
「残念だな。予定通りだ」
 クロンダイクが爆破コードを入力する。空から光が地上へ降り注ぐ。高高度で爆発した核ミサイルから放たれたあらゆる周波数の電磁パルスにより、オーヴァルの適合するあらゆる導体に誘導電流が瞬間的に引き起こされる。
「き、機体が!」
 エネルギーを失ったアーセナル、そしてイモータル。空を飛ぶ者は皆、地上へと落下し、地上を歩む者は大地へと倒れ伏した。
 オーヴァルの全てが静止した。
「見つけたぞ」
 クロンダイクは全てが止まった世界を満足気に眺め、愉快そうに笑った。       

 

*  *  *


[????????]
「予定通りか」
「プロフェッサー、HEMPの効果がある今なら全てを破壊することも可能ですが、よろしいのですか?」
「ああ。未来を担う同胞たちだ。出来れば目覚めてくれることを望もう」
「グリーフ、配置は完了しています。各部隊を<ブラックロータス>へ進軍させますが、よろしいですね?」
「人類の解放を開始しよう」


――――つづく